続きB




「何スか柚絵さん。」


面と向かって彼を見ると、少しやつれたように見える。風邪で寝込んでたから?それとも、あの人に閉じ込められてた、から?


「あのね吏人くん、学校お休みしてた間、その、大丈夫だった?」

「今は風邪ももう治ってるんで、大丈夫ですよ。」

「…違うよね?風邪じゃないんだよね?」

「いや、風邪っスけど。熱が出てたんス。」

「嘘。正直に話して。」

「…柚絵さんなんかおかしいっスよ?何かありました?」

「……私、昨日、リンドウシアンに会ったの。」

「シアンに?そうなんスか。」


…あれ?
思ったより反応が薄い。鎌をかけるつもりだったのに拍子抜けしてしまった。


「そ、それであの人に、吏人くんは自分の家にいるから学欠してるって言われたの!」

「はぁ?」


思い切り不思議そうな顔をされてしまった。おかしい。予想してた反応と違う。
吏人くんはうーん?と唸って頭をがしがしと掻いた。何かを考えているようで目線は空に向いている。綺麗にセットされた髪が乱れきる前に、その手を止めて彼は私をもう一度見る。


「柚絵さん、多分それ…」


「やっほーリヒトォ、元気ーぃ?」


やけに明るい声が吏人くんの言葉を遮る。昨夜聞いた声とは別物みたいに弾んでいるけれど、その主は確かに同一人物だった。


「え?シアン?」

「何してんのー?練習サボっちゃいっけないんだー。」


あの日と同じくフェンスの外に。編み目に指を引っ掛けてがしゃんがしゃんと音を立てて揺らす彼を吏人くんが近づいて咎めている。子供染みた行動は吏人くんの気を引くためだろうか。


「ていうかお前元気そうじゃん。昨日会った時にそこのマネージャーさんの様子がおかしかったから、何かあったのかと思って心配して来たのに。」

「…柚絵さん、こいつに何か言ったんスか?」

「えっ!?」


急に話題がこっちへ向いたものだから驚いてしまった。昨日の私は何と言ったのだったか。確か出会い頭に名前を聞かれ、答え、それから…


「えーと、吏人くんを返して、って。」

「…かえして……?」

「そうそう、なんかマネージャーさん、オレがリヒトに何かしたんだと思ってたみたいでさ。リヒトどうしたんだろうとは思ったけど、面白そうだから乗っちゃった。」

「お前なぁ…!」

「へ?乗っちゃったってどういうこと!?」


へらへらと笑うリンドウシアン、面倒なことをしてくれたと顔に書いてある吏人くん。そして状況の把握が追いつかない私。つまりどういうことなの?


「つまり、オレの欠席理由は本当に風邪で、」

「つまり、オレはリヒトに何もしてないってコト。」


オレが大人しく5日間もシアンに捕まってるわけないでしょう。リヒトが大人しく5日間もオレに捕まってるわけないでしょ。視点だけが異なる同じ内容のことを二人に言われ、私はリンドウシアンにからかわれていたことをやっと理解した。軟禁?そんなものはなかったのです。


「やだ、私勝手な想像で関係ない人疑っちゃって…!ごめんなさい!」

「面白かったからいいDeathって。今度リヒトを5日間貸してくれたら許してあげる。」

「なんでオレなんだよ!」

「冗談だっつの。ていうか疑問なんだけど、なんでオレは疑われちゃったの?確かに日頃の行いが良いとは言えないけどさ。」

「だって吏人くんが欠席し始める直前に、部活見に来てるあなたを見たんだもん。吏人くんのことずっと見てたし、何か関係あるのかと…」


そんなことあったっけ?リンドウシアンはそう呟いて、記憶の紐を辿るように目を閉じる。5秒くらい考えると思い出せたようで「あぁ」と短く声を出した。


「ヴェリタスのオフの日かな。犬の散歩しててここ通ったんだ。サッカーやってるみたいだからリヒトいるかなって思ってちょっと覗いちゃった。」

「お前犬飼ってんだ…。」

「あ、そこに食いつくの?チワワとウェルシュコーギーだよ。」

「「(何その可愛い犬種…)」」


2匹の愛玩犬を連れた姿を想像出来ず私と吏人くんが困惑していると、他の部員たちもリンドウシアンの存在に気づいたようでグラウンド全体がざわついていた。


「オレがいると皆さん練習に集中できないっぽいし、そろそろお暇しよっかな。」


くるりと方向転換してこちらに背を向ける。そのまま左手をひらひらと振り、振り返ることもなくリンドウシアンはあっという間に姿を消した。


「お、おい吏人!今のってもしかして…」

「はいはい、2秒で練習再開して下さーい。」

「今の今までサボってたテメーに言われたかねぇよ!!」


皆にやいのやいのと言われつつ、吏人くんも練習の輪に入っていった。


取り残された私はまだ頭の中が整理できていない。とりあえず現在時刻を確認して現実への復帰を試みようとしたが、脳内ではチワワとコーギーが走り回っていてそれどころではない。2匹のおかげで秒針の動きも捉えられない。

私は1秒と2秒の間の6度空間に取り残されてしまったようだ。



―――――


心亜さんのお茶目でしたとさ。

文才の無さに震えが止まりません(((^-^)))





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