続きA
「何スか柚絵さん。」
面と向かって彼を見ると、少しやつれたように見える。風邪で寝込んでたから?それとも、あの人に閉じ込められてた、から?
「あのね吏人くん、学校お休みしてた間、その、大丈夫だった?」
「今は風邪ももう治ってるんで、大丈夫ですよ。」
「…違うよね?風邪じゃないんだよね?」
「風邪っスよ。熱が出てたんス。」
「嘘。正直に話して。」
「…柚絵さんなんかおかしいっスよ?何かありました?」
「……私、昨日、リンドウシアンに会ったの。」
その名前が出た瞬間、吏人くんの肩がびくりと跳ねた。睨むように私を見つめ、あいつが何か言ったんスか、と問う。
「私、吏人くんを返してくれって言ったの。そしたら、リヒトはオレの家にいるとか言われて、」
「柚絵さん」
「ねぇ、何なのあの人!?吏人くんあの人に軟禁されてたんじゃないの!?5日も寝込むほど吏人くんヤワじゃないし、私そうとしか考えられないんだけど!!」
「柚絵さん…!」
「人を無理矢理閉じ込めておくとかどういう神経なの!?意味解んな…」
「柚絵さん!!」
左肩を強く掴まれた。痛みと衝撃で我に返り吏人くんを見ると、何と言えば良いのだろう、表情の無い表情をしていた。瞳にいつもの光は無かった。まもなくして口がぱく、と開く。2、3秒の間を置いて言葉が垂れた。
「柚絵さんの言う通り、オレ、シアンとこで5日間飼われてました。」
「!?飼っ…!?やっぱり軟禁状態だったんじゃない!なんで5日も大人しくしてたの!?」
「なんで?」
吏人くんは不思議そうに眉根に皺を寄せる。そして信じられないことを言う。
「あいつが好きだから。」
好きというのは愛情を表す最もポピュラーな言葉で、つまり吏人くんはリンドウシアンに対して何らかの愛情を抱いているということで、それは友情などではなさそうなのは確かで、
ではそれは
一体
何
なのか?
「おーい!吏人!ちょっとシュート練見てくんねー?」
「あいよ、今行きます!」
誰だろう。部員が吏人くんを呼んでいる。声の方向へ向かう吏人くんが、私の隣を通り様に言う。
「オレとシアン、愛し合ってるんで心配しないで下さい。」
足元を見て動けない私に、真横から言葉がかけられる。こんなシチュエーションに覚えがありすぎて、リンドウシアンの言葉がフラッシュバックする。
『リヒトは《オレ》のモノだ』
あれ?実際はこんなこと言ってなかったんだっけ?私の思い違い?どうだったんだっけ?あの人は何と言っていた?
ぐる、ぐる、と思考が滞って、何とは無しに腕時計を見る。
焦点がゆらゆらとして、短針の極僅かな動きは捉えられない。
長針も動かない。何秒に1回、目盛りを撫でるのだったか。
ああよかった、秒針は動いている。
カチカチと音もする。
でもおかしいな。こんなに少しずつ、
回るもの
だった
なん
て
。
かつて私の時計の秒針が毎秒弧度法にして1/30ラジアンずつ度数法にして6度ずつ進んでいたのは私が心の正気を保っていたからだと知った。
ついに時計は止まってしまった。
―――――
わー登場人物全員偽物!まさに原作れいぷ!
柚絵さんが遠回しにガシャられる話でしたとさ。