「先生」
ドアを開けると明かりの着いていない教材の沢山置かれている生徒会準備室はしんとしていた。
「先生」
もう一度呼ぶと、やり過ごすつもりだったらしい先生は小さく息を吐いて姿を現した。革靴のコツコツという音が近づいてくるだけで張り付けてる冷静さが剥がれてしまいそうだ。自分の耳に響いているような鼓動が床に振動してる錯覚を起こす。
「どうした。これから生徒会の打ち上げがあるだろう」
「それなら断りました。それに生徒会の打ち上げなら担当顧問の先生も参加でしょ」
「…」
生徒会に入ったときからずっと思っていたこと。うちは先生はあまり顔に感情を出さない。うちは先生は顔がきれい。うちは先生の表情を、感情を動かせる人間になりたい。
うちは先生のことがすき。
「そういう話をしに着たんじゃないんです」
「話があるのか」
気付いている癖に。真顔で言う先生は狡い。
「先生がすきです」
「…」
「気付いて、いましたよね?」
正直、なんでもないふりしているのもそろそろツラい。でも、先生は大人だ。生徒から本気で告白されて更に泣かれるなんて、面倒くさいと思われたくない。
「…ああ。知っていた」
「返事は今もらえますか?私、もう卒業しちゃうので」
「悪いが、俺は教師だ。返事は出来ない」
「そう、ですか」
やばい。瞬きでもしたら涙が出そうだ。だからって先生を見つめる勇気はもう残っていない。
「目を閉じろ」
涙が溢れる。

ついに私は目を閉じた

溢れた涙と一緒に何かが唇に触れた。それが何かと理解するのに時間は掛からなかった。
恐る恐る目を開けると眉を微かに下げて笑んだ先生と目が合った。

「名字」
「は、い」
「言葉で無くて悪い。…わかったか?」
「はい」
あなたの気持ちは私と同じ。


20120314 ゴースト