初めてのS級任務だった。中忍になって大分経った頃担当上忍に今度やってみようと声を掛けられた。任務が決まったときはあまりにとんとんと決められたので正直実感はなかったけれど実際任務に入ると思っていたより体が自然と動き出して自分の足元に忍が倒れると目の前が晴れたようだった。
自信がなかったわけではない。ただ、自信を持っているわけでもなかった。
だから、S級任務の勧めがあったときは内心足踏みしていた。
この複雑で、でも周りから見たら大したものでもないこの感情は昔抱いたことがあった。里の大人たちからも恐れられ疎まれていた男の子、今の風影さまが夜中ひとりぼっちで泣いていたときだ。
私はそれまで話したことも、問題となった挙行も見たことがなかったので直接怖いとかいう感情は持っていなかった。でも、目が合うと私は声を掛けようと思った感情など忘れてしまった。自分も大人に疎まれるような存在になることが怖かった。
つまり私は今も昔も臆病者のまま成長が出来ていないのだ。あのとき声を掛けていたならきっとそれは違っていただろう。
だって、手を差し伸べる人間が居たなら風影さまはちゃんとやさしい方だったのだ。影のつく人だからじゃない。我侭な後悔だ。

「任務、無事終了しました」
担当上忍や同行した他の忍は私と違ってS級任務は初めてではなく、また直ぐに別の任務のため報告は私がひとりで行うことになった。
直接1対1で顔を合わせるのは恐らくあの夜以来だ。
「そうか、よくやったな」
薄い唇を静かに動かして風影さまは言った。
「ありがとうございます」
その目はあの夜のようにさびしさを知っていて、でもあの夜よりやさしい。
担当上忍が任務の帰り、教えてくれた。S級任務に出しても大丈夫だろうと考案したのは風影さまだったと。
「やれると、思ってた」
微かに口角を上げてそう言った風影さま。私と同じ年齢の男の子。

恋におちる瞬間は、世界が息をとめるんだ

「風影さまが背中を押して下さいましたから」
あの夜俺に声を掛けなかった少女。けれど逃げても行かなかった少女。今度は少し近づけるといい。


20120314 ゴースト