遠くに街の明かりが見える。前髪の隙間から見ると、明かりはゆらゆらと揺らめいていて、まるで今のわたしの不安定なこころみたいだ。

わたしの数歩先を歩く、カカシの足元につい視線を落とす。そしてその後ろを歩いている自分の足元を見て、深く息を吐いた。
最初は隣を歩いていたはずなのに、いつの間にか生まれてしまうこの距離が、気持ちの距離のように感じてならないのだ。
幼馴染というのは一見理想の関係に見えるけれど実際はそうではない。更にわたしはカカシにとって年下の幼馴染なのでそれは顕著だ。恋愛の対象としてみてもらえない。それが昔からわたしの大きな悩みなのだ。

昔よく一緒に騒いでいた地元のメンバーで久しぶりに遊んだ帰り、カカシと数年ぶりに再会した。カカシもわたしも地元から出ていたわけではないので、よく考えれば可笑しな話かもしれないが、出くわしたときのカカシの表情がしまったと言っていたからもしかしたら故意に避けられていたのかもしれない。
理由は数年前、わたしがカカシに想いを伝えたからだろう。

「 何年ぶりかな」
しんと静まり返る中、話を切り出したのはカカシだった。

「え…ああ、2年くらいかな」
「2年か」
「うん」
声も仕草もなにもかもが懐かしくて、それだけで涙が出そうになる。
久々に会って、一言二言交わしてこれでは重い女にもほどがある。けれど今はじんと熱くなるこの胸だけは見逃してほしい。
三月も始まり、まだ冷え込む夜。刺すような風も今は心地がよい。微かに春の香りも感じさせるようなこの感じを、カカシと歩いているときに感じられる。

「名前は最近どう?」
「え?」

「恋人はできた?」
「 そんな、…別にいない」
「そっか」

わたしがカカシをすきになったのは中学生のときだった。
ある日わたしは学校で熱を出して保健室で寝ていた。四限目の途中で保健室に行って、起きたときには既に放課後だった。
はっきりとしない頭で皆もう帰ったんだなぁと、身勝手にもどこか寂しく感じた。

保健室の真白い天井しかみていなかったから気付かなかった。カカシが、わたしが寝ているベッドの直ぐ側にいてくれたのだ。
「倒れたんだって?」
「カカシ…」
わたしが身体を起こしてベッドから抜け出すと、カカシは一度わたしを制止した。暖かい手のひらがわたしの額に触れて、カカシは息を吐いて目元に弧を描いた。
「熱は下がったね」

まだ風邪気味のせいもあったかもしれない。だから熱にうかされたのかもしれない。けれど、カカシとの距離、薄い唇とそこから紡がれた声がわたしの耳にはとても響きがよくて心臓が呼応したのだ。ああ、わたしはカカシのことがすきなんだ、と。

…たったそれだけで大学を卒業した今でもすきなのだと考えると随分と長い片思いである。重いと、面倒だと思われても仕方ない。

「カカシよりすきな人なんてきっと出来ないよ」
「そう。 それは…困ったね」
俺にとって名前は可愛い年下の幼馴染なんだけどね。

∴あなたとちゃんと息がしたい

そう言うカカシの声が夜風に運ばれてわたしの耳に届いても、わたしの想いは自分でもどうしようもないのだ。
ふられてしまっても、避けられても、わたしはきっとずっと願わずにはいられない。息を吸って息を吐く。それと同じく自然であるようにわたしが話してあなたが笑む。そんないつか、を。


砂糖に浮かされた舌さま提出 20130303
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