放課後の教室、窓の外でひっきりなしに降っている雨を窓側の席に座って見ている担任の先生の後姿を私は黙ってみていた。
普段から掴み居所の無い、先生らしさもあまりないはたけ先生はやっぱり放課後の教室でも先生らしくはなかった。大分歳が違う私が言うのもなんだけどはたけ先生は人間くさい。役職としての仕事はしているのにそういう風に私たち生徒に接しないのだ。人間として怒ったり笑ったり。
とても、変わった先生だ。
先生の隣の席の椅子を引いて私は隣の席に腰を下ろした。台風が接近しているというのに朝玄関に持ってくるはずだった傘を置いてきてしまって帰るに帰れない私は暇を持て余していた。
「まだ帰んないの?」
先生は窓の外を見たまま話しかけてきた。はたけ先生のほうを見ると特に興味があって話しかけてきたというわけではなく、私と同じく暇を持て余している様子だった。
「もうちょっと、居ようかなって」
どうせあと1時間くらいぐだぐだしていればお母さんが迎えに来てくれる予定だ。特に何かがしたいということもないし静かな学校というのも結構新鮮でいい。それになにより、はたけ先生がいる。
はたけ先生に興味を持っている私としてはこれ以上ない時間の過ごし方だ。
「そう」
「先生は?」
「俺はね、音を聞いてた」
「音?」
「うん。雨の」
「…」
やっぱりとても面白いひとだと思った。私と何歳も離れた大人が雨の音を聞いていたなんて。ちょっとぞくっとしてしまう。普通ではない感覚に、共感できそうにも無いこの不思議な感性の人にどうしようもなく惹かれる。
「変?」
「…変わってるなとは思います」
「でもそれがすきなんでしょ」
窓の外を見ていた目が私をみた。
目を細めて、マスク越しでも口元には薄く笑みを浮かべているのがわかる。どうやら私の想いはしっかりと気付かれていたようだ。
確かに、この気持ちを隠そうと思ったこともないし、例えばクラスメイトに「先生のことすき?」と聞かれたら私はためらいも無くすきだと言うだろうけど。
「すき、ですよ」
言ってからああ、告白をしてしまったと思った私は馬鹿なのだろうか。馬鹿なのだろうな。雰囲気もなにもない。しかも言う前からバレてしまっているのだから。
でも、これでよいのだ。どうせ先生からすれば生徒の私なんて子供としか映らないだろうし私は私のことを想ってほしいと考えてるわけでもない。
伝えられたら、満足なのだ。
「素直だね」
「まぁ…隠しても意味がないので」
「まぁそうだよね」
「はい」
また窓の外をみた先生を見て、流されたと思った。悲しくも寂しいとも思わなかったけどちょっとだけ、虚しかった。ごめんね、くらいの返事はもらえると思っていたから。

「俺も結構すきよ」
「え?」
「生徒にしてはだけど。セックスも出来るくらいはね」
「…」
面食らった。思わず瞬きを数回。はたけ先生はそんな私の様子に気付いたのかこちらを見てまた薄く笑った。
「どうする?」

汚いくらい綺麗な人

「私は…」


怠惰 20120304