目を閉じると瞼がひやりとした外気に触れて、涙が溢れそうになった。

決して辺りが寒いというわけではない。こころが、寒い。
そう言ったらあなたは「馬鹿を言うな」と言うだろうか。

「名前」
「なに?」
「なにじゃないだろう。任務だというのに来ないから着てやったんだ」
「ああ、それはどうも…」
何度も繰り返したあのやりとり。
あれはあなたに迎えに来てもらうためだったのだと、きっと気付いていたでしょうね。あなたは頭がいいひとだから。
そう、だから気付いていて聞かないでくれたのでしょうね。

けれどね、嬉しかったよ。

「この戦いが終わったら」

ああどうしてだろうか。あなたの声はこんなにもわたしの中にある(存在している)というのに、もうこの目に映すことはできないのだ。
あなたは、冷ややかで酷く残酷なこの世界の中で亡くなってしまったのだ。

厳しくて、現実的で、けれどきっと誰よりもこんな悲しい世界を壊してしまいたかっただろう程にやさしかった。そのあなたが、やさしい世界に触れることなく消えてしまったのだ。
それをどうして、なんで亡くなってしまったのと責めることが出来るだろうか。
置いて逝ってしまったのと叫ぶことが出来るのだろうか。
わたしが出来るのは、あなたを思い描きながら、悲しい世界をより進行させてしまうだけの、クナイを握るという行為なのに。

「名前」

ああ、あなたの声が聞こえる。



フリー 20130124