私が暁に属していたのは殆ど一瞬のような期間だった。実際任務に当たっていたのは一週間ほどだったけれど戦っているときも歩いているときも全てが永遠のようで一瞬のようだった。
それはきっとそのとき組んだツーマンセルの相手がうちはイタチだったからだということを今気がついた。

それは火の国の近くに腰を下ろしたときだった。昼間早くから大分歩いたせいもあって戦うよりも疲れを感じていた私が大き目の岩に腰を掛けたのだ。すると暫く立ったまま上を見上げていたうちはイタチが私の隣の地面に腰を下ろした。
「降りそう?」
歩くには楽な天気ではあったが今日は朝から空に灰色の雲が充満していて辺りが紺になった今もそれは変わらなかった。
「いえ、ただ」
「なに?」
流石に短気だと自分で思うけれど私は歩くというだけの行為にとてもうんざりしていたせいもあってそのはっきりとしないうちはイタチの言葉を促すように口調を強めたのだ。
すると幾分も年下である筈のうちはイタチは空を見上げていた目をこちらに向けて眉を軽く下げるなり感傷的な表情で口元に薄ら笑みを浮かべた。
「月が、綺麗ですね」
「え、ああ…ああ、そうね」
促されるように空を見上げればどんよりとした雲の隙間からは薄い黄色をした月が見え隠れしていた。綺麗と言うには少しばかり満足に値しない見え方だったけれど私は確かにと、苛々を蹴散らす薄明かりに見惚れた。

この感情を表すことを許されないのならせめて届かない呟きだけでもと思うのは許されるでしょうか

補欠のような形で入った暁、そこで知った奴がその弟に殺されたと知らせが入ったのはそれから大分後のことだった。今更だけれどあのときの言葉には含みがあったのと問うたら、奴はもう一度あの感傷的な笑みを私に見せてくれるだろうか。


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