「名字」

「あ、何?」
「ここ、回答間違ってる。この公式に当てはめれば解けっから、書き直してから提出しろよ」

「あ、ありがとう」

クラス委員であるサスケが、つい今終わったばかりの自習で出されたプリントを回収している途中、未だ提出できない状態にしか回答欄を埋めていない名前にそう言っているのを、俺は苦虫を潰した気分で見ていた。
名前はサスケに言われた通りの公式を当てはめ、真剣そのものの表情でカリカリとペンを走らせている。
昼休み開始の鐘が鳴って、クラスメイト全員文のプリントを回収したサスケがプリントの束を持って教室を出て行ったその直後、名前は、はにかんで「サスケくんかっこいい、」と、まるでサクラのようにどこか遠くを見ているようにぼーっとした表情で言った。そんな名前を見て面白くない気持ちを隠しつつ、どうしてサスケがすきなんだよ、なんて俺は聞く。

「えー…どこなんて決められないよ」

へへ、とにやけて机にごろんとした名前は、俺の家の近所に住んでいる幼馴染。そしんで片想いの相手っつーお決まりな関係だ。でもそんな名前のが想っている相手はクラスメイトのサスケだ。
昔っから名前を知ってる俺としては名前がこんな風になってる姿は想像がつかなかったが、ここ最近はもうサスケの話しかしない。おおっぴらにすきだということは言ったりはしてこないが、それでも名前がサスケのことをすきだっていうのはわかりやすい。昔から名前に片想いをしている俺としては、あんまそういうことは聞きたくない。いっそ言おうかなんて考えた事もあったが、楽しそうにしている名前を見るとどうしても、気が引けてしょうがねぇ。それに

「ねぇねぇ、サスケ君ってどんな女の子がすきなのかな?」
「しらねぇよ」

「さり気なく聞いてみてよ、お願いっ!」

こんな風に頼りにされるともうなにも言わない方がいいんじゃねぇかって思うんだ。だからってサスケが名前と付き合うことになるのは断固阻止するが、今はどうしたらいいのかわからない。
頬を染めて頼み込んでくる名前が可愛くて仕方ねぇ。


疼く心臓を掻き毟った、恋

「気が向いたらその内な」

今はまだ、気楽な幼馴染として、身を潜めていてやろうかって思うんだ。


白勢 20121205