中庭で初めて彼を見たとき、ああ彼に惹かれてはいけないと思った。
そしてあっさりと惹かれた。
剽竄スい指先に憧憬
中庭で寝転んでいた彼は頭の後ろで手を組んで目を伏せていた。
寝ているのだと、思った。
薄く吹く風が彼を起こすのではないだろうかと思うくらいに細いイメージだった。
一定の強さで吹いていた風が急に強くなった。
砂が目に入るかもしれないと思わず目を瞑って、彼が起きてしまったかもしれないと目を開けると、目を開けた彼が私を見ていた。
目が合った。
その瞬間、自分はなにかしてはいけない過ちをしてしまったように思えて思わずその場から逃げた。目が合ってはいけなかったような、気がしてならなかった。

彼に惹かれたことに気付いてどうしようもなく恥ずかしくなった。話をしたわけでもないのに、自分を女として意識できてしまうことが恥ずかしかった。

けど、だからといって一度焦がれてしまった感情をなかったことには出来なくて、私は心臓に何かが巻きついているような違和感をずっと抱えていた。
授業中も、名前をしらないクラスも学年さえもしらない彼のことしか考えられない。
あの、目にもう一度見られたい。
そう思った。そうして私はもう一度、彼を見たときと同じような時間帯に中庭へと着てみた。いるかどうかわからない。けど、いるような気がした。
そして、居た。今日は声を聞いてみたい。

「あの」
「?」
睫毛が長い。きれいだと思っていた顔も近くで見るとよりきれいだった。髪もやわらかそうに風に靡いている。近くで声を掛けると彼は目を開けて私を見た。
心臓がきゅううと締まる。顔が熱い。

「名前、聞いてもいいですか?」
よりにもよってなんて初対面だ。否、正式には初対面ではないけど。

「…はたけカカシ」
そっと呟きながら伸ばされた腕。恐る恐るその手に触れ、握手をする。なんて現代に似合わない初対面だろうか。そうして私は彼の手に触れながら気付いた。
彼が女癖が悪いという噂の人であるということを。

私はやはり彼に惹かれてはならなかったのだ。


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20121130