さり気無い甘い関係に憧れて、それに自分をそれに近づけたくて仕方なかった時期はあった。
けれど私の現実はやっぱりそうではないらしく、今は長く付き合っているシカとの関係もとてもドライなものになっている。

同じ部屋の中。それぞれが違うことをしている。それも今回だけとかではないし、今が喧嘩をしているわけではない。
青いペディキュアを塗ると自分の色が冷たくなったような気がする。吸い込まれるような深い青いに惹かれて買ったけどこれも私には似合わないものだったのかもしれない。

「なんの臭いだ」
ソファに座っている私の後ろでベッドに腰を掛けて将棋本を片手に試し打ちをしていたシカが声を掛けてきた。

「ペディキュア」
「ああ、なるほどな」
パチっと高い音がした。区切りがついたのかパラパラと本を捲っている音が聞こえる。

「臭かった?」
「少し、な」
本をベッドに置いて立ち上がったシカが見えた。視界の端に入ったというよりは横目で私が見ていたからだけど。

腰に手を当てて何気なく私が座っているソファの側に来た。
じっと私の足元を見るシカに何となく居心地が悪くなる。

「ソファにはつけないわよ」
「そうじゃねぇって」
「じゃあなに?」

立っているシカを見るように顔を軽く上げる。

「青、似合うのな」

答えあわせは後でいい

似合うとか似合わないじゃない。すきだから、惹かれた。それだけだった。


亡霊
20120910