記憶が無くなってもなんとかやっていけるものだと、思っていた。はたけさんという私のことを考えてくれる人や記憶の無い私にやさしく接してくれる木の葉のひとたち。
けれどそんなのは夢を見ている子供の考えと何も変わらなかった。

今日は、定期健診というものだった。
私の無くした記憶は生活をする上でなんら問題ない(と言ってしまうとなんだけど)らしい。だからといってほって置いていいかは別らしく週に1度私は木の葉病院へ行って健診を受けることになっていた。
健診の結果は悪くなかった。記憶は全くと言っていいほど戻っては居ないし火影様曰く戻る気配もないらしいがこの1週間と同じく普通に生活しても大丈夫だそうだ。

カルテになにやら健診の結果を書いている火影さまに、私はこの1週間気になっていたことを尋ねた。

「あの」
「ん、なんだ?」
「その、はたけさんは…強い忍なのでしょうか?」
「はぁ?」
何を言っているんだ。そんな反応が返ってきた。火影様の側で私の健診の補佐を行ってくれていたサクラちゃんというかわいらしい子が直ぐにくすりと笑った。

「カカシは、強いぞ」
サクラちゃんを一瞥して火影様はにやりと笑うとそう呟いた。そう、そこで私は漸く知るのだ。はたけカカシさん。彼がコピー忍者と名高い凄い忍であるということを。私のことをすきだと言ってくれた人が、次元の違う存在だということに。
とはいっても私は忍ではないので普通の忍が相手でも全く適わないわけで、その中でも名が通っているらしいはたけさんの力は未知数だ。
更にサクラちゃんの先生だというのだから吃驚するばかりだ。

帰り道、私は考えた。一般人である私と彼はどうやって出会い、恋人にまでなったのだろうか。とうてい理解できない世界を歩いてきたひとだ。それが取り得のない私にどうして惹かれることがあるのだろうか。


「師匠」
「ん」
「ユナさんの記憶って戻らないんですか?」
「…」
「師匠…?」
病院の中から窓の外を歩いているユナさんを見ていると思った。ちょっとカカシ先生の空気と似ているところがあるって。それはカカシ先生の下に着いていた私じゃなくてもわかるのかもしれないけど、カカシ先生の恋人だって知っているからそう思ってのかもしれないけど。
よく知っているカカシ先生の恋人さんだから、余計に記憶が戻ればいいなって。

「…戻れば、いいんだがな」
師匠は眉をひそめて呟いた。


20110427
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