柔らかい。それでいて体に負担を掛けない程度の硬さもある。そんな感覚に包まれたまま目を開けると真白が視界に飛び込んできた。
「起きた?」
聞こえた声の方を見れば覚めたばかりの目では辺りの白に馴染んで見づらい銀髪の、顔を半分隠した怪しげな男がこれまた怪しげな文庫本を片手に私を見ていた。やたらと男の顔が小さく見えたのは私が横になっていて、男を下から見上げるような形になっているからだ。「…誰」「まぁ、それはいいじゃない」知らないひと(しかも男)を相手に横になったままでいるわけにもいかないので肘を曲げ、体を支えてベッドの枕元に背を預け腰を掛けると男はパタンと文庫本を閉じてじろじろと私を見てきた。
「…あの、なんですか?」
急にじろじろと失礼なひとだ。そう思った矢先、肌色が視界に広がり、次の瞬間には頭を撫でられていた。
そこで私は男が立ち上がり私の頭を撫でたのだと気付く。
その間私は固まっていたのだろうか。自分としては反射的に顔を上げた。
「ちょっと、なんなんですか急に、っ?」
けれど顔を上げるぎりぎりまで頭の上にあった手はなくなり、男は私が寝ていた病室らしい部屋の入り口に立っていた。
「ユナは俺をすきになるよ」

衝撃的な言葉と私に動揺を残し、銀髪をゆらゆらと揺らして男は消えた。


20110221
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