「どうしても嫌だと言うならせめて俺を納得させるだけの理由がほしい」
今まで見たどの表情よりも哀しそうな顔。声色をしていた。顔も事柄でさえも覚えていなくても自分の記憶を失う理由になった忍をわたしは殺してしまいたいくらい憎い。殺すという重み、罪を感じる人生だとしても。その忍が居なければ記憶を失わなかったとは思わない。きっとわたしは…どのわたしもしあわせだった。はたけさんに愛されていてしあわせだった。だからわたしはこれ以上のしあわせは要らない。ただはたけさんを悲しませるわたしなんてほしくなかった。
「わたしは、」
息を呑んでしまう。真剣な二つの目がわたしを見ている。言葉を待っている。わたしは間違っているような気分にさえなる。怒られて無いとわかっていてもきっとはたけさんはいい気はしていない。わたしでもそうだと思う。でも理不尽なことだけれどわたしの立場ならわたしはどうしたってやめてほしいのだ。わたしに期待をするとか待って貰うことを。
「わたしははたけさんがすきです」
「…え?」
顔を見ることが出来ない。やはり息が詰まりそう。今度は違う意味で。喉が、顔が熱い。
「人としては勿論ですが、男の人、として」
「…」
「だからです。すきなひとに悲しんでほしくない」
「随分狡い言い方をするな」
「わかって居ます」
こんなに待たせておいて答えをほしいなんて思わないし思えない。だからわたしの恋愛はここで終わり。そして出来ればわたしとはたけさんも。
「ユナは俺にどうしてほしいの?」
「もう、も…待たないでっ」
声を絞り出すように吐き出した。声も感情も全てが見えてしまうような気がしたけどそれでも絞り出さないと言葉にならなかった。
「じゃあ何で泣くの」
はたけさんの指は長い。そして大きくて、暖かい。
わたしの自分勝手な涙をやさしく指で掬ってくれるはたけさんが、彼のことがいとしい。いとしくていとしくて仕方ない。いとしい、そしてそんな彼を悲しませることしか出来ない、待たせることしか出来ない自分が大嫌い。
「内緒です」
「なんで笑うの?」
はたけさんの匂い。人を殺めても名高い忍(殺めることが優秀)になってもやさしい、わたしには背伸びをしなくてはいけないような少し大人な匂い。硬いのにやわらかくわたしを包んでくれる腕、支えてくれる胸。
抱きしめてくれる存在。
「内緒、です」
「俺のこと、すきって言うのはほんと?」
「…、」
「ユナ」
「すき、…すき、っ」


20111111
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