「馬鹿にしないで」
「…」
「わたしはテンゾウに愛されないと駄目な女じゃないし、ふられることがわかっても言いたい」
確かに愛されたいと思っていたことは事実であるし、それが一番大きくこの気持ちを形に近づけた理由だけど、わたしのこの気持ちは想われることが全てじゃない。
「誤解をしていたようだ。ごめんね」
「…」
釘を刺されていた。なのに、予想よりも傷つくものだ。ふられてみて初めて、嗚呼わたしはテンゾウのことを愛しているのだな、とわかる。
地面に触れている足の裏からつま先。そしてじわじわと脳へ浸透するようにテンゾウに焦がれる想いが身体を満たしていく。頭のてっぺんからあふれだしてしまうほどに。
これが愛というものなのか。
告白を終えて初めて実感した。

「ああ、ごめんね」
「…なんども言わないで。ちゃんとわかっているから」
申し訳なさそうに眉を潜めて呟いたテンゾウに少し拗ねたような口調で返した。テンゾウは悪くない。だから悲しい声で話さないようにしたけれど、思ったより沈んだ声が出てしまった。失敗。
「違うんだ」
「なにが」
「ごめんと言ったのは誤解をしていたからで」
「? ふられるのを知ったら告白をやめるんじゃないかってことでしょう」
「ああ、いや…僕の言い方が悪かったね。仮に百井さんが僕をすきだと思い違えているとわかっていてもそう言われたら僕はずっと恋人でいたくなってしまうってこと、かな」
「…?」
「ああ、わかりにくいよね、うん」
「…うん」
テンゾウはがりがりと自分の短い黒髪をぐしゃぐしゃにして酷く困ったように笑った。ああ、その顔すきだなぁ。ふられたばかりだというのにこの気持ちは思い通りになってくれないみたいだ。こうなると何故いままですきだということに気付けなかったのかが不思議で仕方ない。よく見なくてもテンゾウはわたしの心臓が締め付けられるようなことばかりを集めたような男だ。
外見は勿論。その仕草も声も、口調もふいにこちらに気付いたときの「あ」っていうときの表情とか。

「僕の恋人になってほしいんだ。百井さんに」
「うん」
「ありがとう」

「どういたしま…え?」
「ん?」
「どう、いたしまして…」

半信半疑だ。もしかしてこれはわたしはテンゾウに受け入れてもらえたのか。そういうことなのだろうか。そういうことなのか。
急すぎて実感がまったく湧かない。けれどもしかしたらなんて淡い期待がふつふつと生まれてくるのは

「宜しくお願いします」
「こちらこそ…」
宜しくと言ったテンゾウの表情がどこか照れくさそうに見えたから。じわりと実感し始めるとなんだかこちらの方が恥ずかしくなって急に顔を見られなくなってしまう。
顔に熱が集まるってこんな感じなんだ。もしかして顔は赤いのかな。

「顔赤いね」
「え」
思っていたことを言われて余計にどきりとする。


貴方が残した冬はもう終わる

「可愛い」

火が出そう。


20130330