いつも通りの光景が、任務のあとだととても染みてくる。
これで服が汚れていなければ最高なんだろうけど、生憎何も汚さずに任務を遂行できるほどの実力は持ち合わせていないのだ。
ぼんやりとどうでもいいことを考えながら歩いていると視界の端にカカシさんの後姿を捉えた。確かカカシさんも任務のはずだったと思ったけど、いつ帰ってきたのだろう。なんにしても今日はついている。
なんとなく嬉しくなって彼を追いかけるけど、あっという間に視界から消えてしまう。気付いたのが曲がり角だったからなんてのは言い訳で、きっと実力に差がありすぎるのだ。
急いで角を曲がって辺りを見ると、休憩所に向かっている横顔を見つけた。
わたしはまだ上忍ではないのであの休憩所はなんとなく入りにくいけど、既に意地になっているのだろうか、構わず追いかけた。
休憩所の前についた頃には少し体があったまっていた。
がらりと扉を開けると、丁度扉の真向かいに座っていたカカシさんと目が合う。
にこり。
「遅かったね」
やわらかい笑顔と共に掛けられた言葉に顔が熱くなる。
当たり前だけど、気付かれていた。嬉しさよりも恥ずかしさが勝る。
「…気付いていたなら待っていてくださいよ」
思わず呟けば自分の声は思っていたよりも拗ねているように聞こえて、幼さに少しばかり凹む。
「いやぁ…追ってくれるのって嬉しいじゃない?」
「…そうですか?」
「必死な感じが可愛いなぁって、俺は思うよ」
カカシさんが右手に持っている小説はしおりからはまだ一ページも進んでいない。わたしにしてはやはり頑張ったのだ。
けれども困った。
「で、どうしたの」
「え」
「何か用があったんでしょ」
そう言いながらほくそ笑んでいるカカシさんに体全体が沸騰しそうだ。
最早カカシさんは本を読む気がないのだろう。喉を奥が鳴らないようにと笑いを我慢しているようにさえ見える。
「用、なんて…」
なにもかも知ってるくせに
「…会いたかっただけ、です」
「 本当に、お前は可愛いね」
口布の上からでもわかるほど、弧を描いて微笑むカカシさん。
なんて、意地の悪いひと。
臍
ch.さん 20130214