呆れてほしい

「あ」
人差し指の腹にぷくりと赤い血がまあるく出た。

「…またやったのか」
「みたい」
わたしはクナイを手入れしているときによく指の先を切ってしまうのだ。
敵と向かい合っているときはそんなミスはしないというのに不思議である。

恐らく気が緩んでいるのだろう。
わたしがクナイの手入れをしているときは決まって、サソリの部屋にいるから。

「お前は馬鹿か」
「ね、馬鹿だね」
サソリが見せろという態度でわたしの手首を掴んで引いた。
勢いよく引っ張られたものだから体が少しだけサソリの方へと傾いた。
サソリはマジマジとわたしの指を見てこれ見よがしに溜息を吐いた。

そしてわたしの手はそのまま胡坐を掻いているサソリの膝の上に置かれ、サソリは足元に散らばっていた瓶の中から幾つかの瓶を掴むと面倒くさそうに蓋を開けた。
「あれ、舐めないの?」
思わず呟くと目が合ったサソリに「お前馬鹿か」という目で見られた。

「手を掴んだから舐めるのかと思っただけ。他意はないから」
「舐めてほしいって言うなら舐めてやってもいいけどな」

今度は吐き捨てるように呟いたサソリ。
視線を落として手元の瓶の中から薬に使う薬草を取り出しているサソリの、横顔を見ているとわたしは何故か胸が苦しくなった。
サソリは自分からはこれでもというほど強引に動いてくる癖にわたしが動くのは避けるようなそぶりを見せるのだ。

「サソリの中にわたしの血が混ざるのは、うれしいかもしれないと思っただけだから」
「馬鹿か」
サソリは変わらず下を向いたままだ。手元だけは薬草を擂っている。目元は見えない。
わたしが黙ると異常なほどに静かになるこの空間がどことなく寂しくて、ほのかにやさしい。

「でもわたしたちはきっと別々に死ぬだろうから」
「…」
「ひとりだろうから」
「…」
「どこかでサソリの一部になれたらいいなって思うよ」

「そうか」

わたしの人差し指の血は既に乾いていたけれど、サソリはそこを態と刺激するように歯を立てて舐めた。
チクリと針が刺したような痛みがあったけれど黙っていると、サソリは直ぐに先ほど擂り潰していた薬草を塗ってくれた。

「お前は救いようのない馬鹿だが」
「うん」
「…俺も大概だな」

これで一部になったな

ごめんねママ
結衣さん 20130203



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