手のひらを傷つけた

「おい」
自室のベッドの上でクナイを磨いていると後ろから低い声がして、直ぐに頭に強い衝撃を受けてわたしの体はベッドに倒れこんだ。
「…な、」
なに。
怒りも込めて、勢いよく体を起こしそう言うつもりだったのだがわたしは頭に圧力を受け、体を起こすことは叶わなかった。
こんな意味も無く非道なことをするのはサソリさんしか居ない。わかっているけど、年上であり、先輩であり、好みの容貌を持っている相手だけになにも出来ない。
相手がデイダラだったなら髷を切ってやるぐらいの脅しはするのに。
そうこう考えているうちに酸素が足りなくなってきた。わたしは我慢ならず布団をばんばん叩くと、許してくれたのか頭への圧力はなくなり、体を起こすことを許された。
「なにするんですか」
「お前昨日の任務でヘマしたんだってなぁ」

「ヘマ…。怪我はしましたがちゃんと殺しましたよ」
「今回の相手はそこそこ偉いだけで忍じゃねぇだろ。護衛だってたかが知れてる」
「まぁ、そうですね。確かに甘くみていましたし話に夢中になっていたのもよくなかったかもしれません」
けれどそれは、ツーマンセルの相手が珍しくイタチだったからだ。年齢は同じなのに滅多に話す機会もなかったものだから久しぶりで少し嬉しかったのだ。

「…」
わたしがそう言えばサソリさんはわかりやすく大きなため息を吐いた。
「おい」
声が耳に届いた瞬間、わたしがさっきまで磨いていたクナイを握ったサソリさんが懐へと入っていた。咄嗟にクナイを構えたものの、反射的に構えるべき相手でないと脳が叫んだ。
「く…っ」
クナイは払われ弧を描いてドア近くの床に突き刺さる。それを目視した瞬間手のひらに鮮明が痛みがはしった。
「サソリ、さん…っ!」
「なんだよ五月蝿えな」
サソリさんはわたしの手のひらを一瞥すると、まるで何も無かったかのように振舞っている。
「…」
「切れ味がいまいちだ。もう少しちゃんと磨くんだな」
それだけ言って部屋から出て行こうとするのだ。
わたしは意味のわからない、けれどなんだかどうにも整理の出来そうに無い苛立ちをその背中にただ向けた。
するとドアに手を掛け、サソリさんは顔だけでこちらを見て言った。
「仕込もうと思えば仕込めたが、しないでやった。せいぜい俺に感謝して精進しろ」

姿のなくなったドアを睨む。そしてわたしは傷ついた自分の手のひらを見下ろした。
毒なんか最初から仕込まれているようなものだ。

わたしは再びクナイを磨き始めた。



20121101



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