ゆるがすあいだ

「何してんだよ」
やることもみつからない。
そう思いながら放課後にふらりときてみた屋上であとから着た男にそんなことを言われた。
柵に凭れ掛かりながら見る、校庭で部活をしている運動部のひとたちの姿が結構よかっただけに邪魔をされた気分になる。
「…暇をしていたよ」
面倒くせぇな、こいつ。
初対面。投げかけた言葉に返された発言で反射的に感じた。

けど、なんで面倒な奴がすきじゃない俺が声を掛けたかって、夕日に照らされた横顔に惹かれたからだ。
「サソリ」
「は」
「だっけ、名前」
「…」
酸素が一瞬薄くなったみたいだ。なんて、錯覚にもほどがある。
柵に凭れ掛かるように背を預けてこちらをみるその女の雰囲気に背中を撫ぜられる。
「違った?」
邪魔をされた。けれど暇だっただけに干渉は少しばかり心地がよかった。しかも、よく顔を見ればなにかと話に聞くサソリという男だったのだ。噂を聞いたときは興味がなかったけれどこうして直にみてみるとよくわかる。
わたしも、一度くらい騙されたいと思ってしまう。そんな容貌をしている。

「ああ、そうだよ」
「…」
心臓が緊張している。
そう思った。
「で」
「なに?」
「お前の名前はなんて言うんだよ」

サソリがこちらに向かって歩きながらそう呟く。唇の動きより声が遅れて聞こえる。
そう思った。けれど違う。
声が遅れているのではなく、動きが酷く滑らかで速いのだ。

わたしの頬をサソリの手が撫ぜた。そのまま耳の後ろまで。髪が流れる。
サソリの目が薄められる。そう認識しながらわたしもゆっくりと目を閉じた。










「わたしたちがもう少し知りあえたら教えてあげる」
「…そうかよ」


けしからぬ 20121015