それが小さな幸せというやつさ

春を
夏を
秋を
冬を

こうして穏やかに感じられるようになったのはいつからだったろう。
手元の書類からふと視線を外すと思いのほかきれいな空が焼きついた。
「風影さま」
「…ああ」
先刻任せた仕事を終えたのだろう。任せた分の書類を抱えてトゲコが部屋へと入ってきた。
「 何か見ていたんですか」
「否、なんでもない」
ただボーっとしていただけだ。そう暗に言えば流石幼馴染というべきだろうか、それを察したらしいトゲコは小さく笑んで俺の隣へときた。ぱさりと書類をデスクの上へ置いたトゲコとふいに目が合う。

「少し、ボーっとする時間を作った方がいいかも」
「そうか…?」
立場上ではないそれに変わったトゲコに、瞬間呑まれる。
昔はそれこそ幼馴染というものがいた事も知らなかった。トゲコと話をしたのも数えるほど。けれど弱かった俺にとってその数回が、どれほどのものだったかはきっとわからない。
「息抜きにもなるし、きっと皆も我愛羅を見たら喜ぶ」
「…昔とは大分違うな」
「うん。だって今の砂隠れは我愛羅がつくったから」
けれどわからなくていい。これは俺だけが知っていればいい。
「…」
ここまで来るのに色々なことがありすぎてつい、想いを馳せた。
それが、いつの間にか頭が下がっていたらしい。頭の上からふっ、とやわらかな笑み声が聞こえた。

「それにわたしも久しぶりに我愛羅と、…話がしたい」
「ああ、俺も話がしたいな」
この曖昧な関係について。


背中
20120929



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