だから今が辛いのかもしれない。きっと、これは本気の恋なのだ。
「…サソリ」
だから今こうして名前を呼ぶのさえ億劫で仕方ない。あまり深入りするべきじゃない。わかっているのに、言ってはいけない聞いてはいけないことをわたしの口は形取りたがっている。
「ああ?」
「昨日、どこ行ってたの」
「は?」
「昨日は非番だったのにいなかったから」
「浮気でもしてたんじゃねぇかってか?」
わたしの言いたいことに最初から気付いていたのだろう。サソリはただこちらを見ていただけだった目を一瞬細めて、クククと喉で笑った。
「…どうなの?」
「 だったらなんだよ」
わたしを馬鹿にしたような笑いを止めて真顔でサソリが聞き返してくる。悔しい、虚しい。そんな感情が溢れる中わたしは必死になって暴れそうな感情を押し込めていた。こんなときまで馬鹿だなと、本気で思う。けど、面倒な女だと思われたらきっとサソリとは一緒にいられないだろう。
ならいっそのこと、都合のいい女でありたい。
「…」
わたしが黙ったままでいると、サソリは眉間に皺を寄せて機嫌が悪そうに立ち上がってこちらに近づいてきた。
「おい」
「…なに?」
「言いたいことあんなら言え」
「…言いたいことなんて、」
いっぱいあるわよ。浮気しないでほしいとか、もっとわたしのこと気にして欲しいとか、ほんとにわたしのことすきなのとか、もっとサソリに触れたいとか、サソリのことが本気ですきだとか、
「…離れてほしくないっ」
「…」
「本当は、殺してやりたいくらい相手の女が憎い。憎くて、仕方ない」
「 は、馬鹿か」
思い切って言った。それに対してその言葉はあまりにもわたしに突き刺さった。これでは暁にも居づらくなるとか、どこか的外れなことも考えながら脱力してしまった。もう、終わりだと、思った。
「トゲコ」
「!…ん、っ」
後頭部に手を添えられ、そのまま強引に口付けられる。あまりに理解の出来ない流れにわたしは思い切りサソリの胸を叩くが、傀儡であるサソリは全くびくりともしない。寧ろ拍車を掛けてしまった様にサソリの舌が口内に侵入してきた。
「や、」
思わず唇の隙間からもれた。それでもサソリは全くなんとも思わないのか、逃げようとするわたしの舌に舌を絡めてくる。こんな風な口付けは嫌だと思っていたのに、これがどうしてかサソリのはきもちよくって、ほだされそうになってしまう。
しまいには歯列をなぞられ、開放されるときには唇の皺を覚えるように触れるだけの口付けを何度もされた。
「は、っあ…は、」
へたりと地面に手を当てて体重を支えているわたしをサソリが見てくる。
「誰が浮気なんてするか。お前は俺のことだけ考えてりゃいーんだよ」
できそこないは酸欠
要するに今の口付けはサソリを疑った罰。
あを
ミントさん 20130310