愛を知りながら

「おはよう」
「…おはよ」

朝起きるとソファに座って忍具の手入れをしているトゲコに迎えられた。テーブルには忍具の隣は似つかわしくない、いい香りを放つコーヒーが置かれている。パジャマのまま、ぼーっとしていたらトゲコはふっと笑って「カカシもコーヒー飲む?」と尋ねられた。
「…ああ、うん。飲みたいな」
普段人の気配を感じたら気付くのに隣にいたのがトゲコだったからか。昨夜一緒に眠ったはずなのにベッドから抜け出したときに目が覚めなかったのは俺が安心しきっているせいだろうな。
手入れしていた忍具をテーブルに置き、立ち上がったトゲコはキッチンへと消えた。その間に着替えてソファに座り待っていると数分してコーヒーカップを手にしたトゲコが戻ってきた。

「はい」
「ありがと」
渡されたコーヒーに口をつけると深い匂いが鼻を掠めて朝独特のさわやかな気持ちになる。そんな俺の隣でトゲコは再び忍具の手入れを始める。

「あんまり忍具使わないのに几帳面だな」
「んー…まぁやっても損はないから」
年下だとは思えないくらいにしっかりしているというか。まぁ驕りを知らないのはいいことだけど。
「そう言えば前言ってた修行はどうなった?」
「中々非番がないから微妙なとこだけど、少しずつ実ってる気はする…。」
「俺と一緒に修行すればいいんじゃないの?」
「えー…」

前にもトゲコが修行をしたいと言っていたときに一緒にしようかという話をしたが、トゲコは渋った。なんでも、俺に頼りたくないらしい。普段から甘えたり寄りかかることに慣れると、いざ厳しい任務に当たったときに誰かに手を差し伸べられることを期待したりする弱い自分になるのが怖いそうだ。
まぁそれも一理はあるし、わからなくもないが、俺としてはやっぱり恋人に甘えられたいものである。勿論、こういう頑張り屋なところもすきになった理由のひとつなのでこれまた惚れた弱みだ。情けないことに強く言えないのである。

「ま、考えてみてよ。俺が修行をつけるんじゃなくてお互いにってことで」
「ん…。まぁカカシがそこまで言うならちょっと、考えてみるけど」

忍具をテーブルに置き、仕方ないなぁと息を吐き笑みながら、コーヒーカップを手にとってこちらを見るトゲコにどうしようもなく心臓を動かされるのだ。穏やかに、けれど春やかに。

∴愛を知りながら
愛をほしがる


馬鹿みたいに。


へそ
ハナブサさん 20130304




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