戦う術をもたない只のにんげん

どこのアジトにも必ずある、何かあるときに集まる木で作られたテーブルに突っ伏すようにして岩で出来ている天井を目だけで見つめていた。
暇だったわけではない。
今の気持ちを言葉にするならきっと虚しいのだろう。
こんな感情になるとなにか病気にでもなったのではないかというくらい自分が弱弱しいものに思えてならない。とはいってもわたしは今しがた任務を遂行してきたばかりだ。
この感情はそこで拾ってきてしまった。
任務は至って簡単なものだった。尾獣についての情報を持っているという巫女から情報を聞きだし殺してくること。忍でもない相手を殺すことは暁の一員であるわたしにとって酷く手間の掛からないものだ。
実際、その巫女とやらは巫女らしい力はないらしく、その地域一帯で祭り上げられているようなものだった。

「戻っていたのか」
「…お疲れ」
回想に耽っていたせいか気配に気付かなかった。先ほどまで視界に収まっていた天井は今イタチの背後へと消えている。
上体を起こし返す。

今戻ってきたのがイタチでよかった。これがサソリだったりしたら毒を盛られて実験台にでもされていたかもしれない。しかし、イタチであったことはわたしにとって大きな意味のあることだった。彼はきっとわたしのほしがっている答えをくれるだろう。

「イタチ」
「なんだ」
「…さっきさ、任務で」

忍術を使う必要もない。巫女を殺そうとクナイを振り上げたとき、巫女をかばうように男が飛び出してきた。当然クナイはその男の心臓に突き刺さる。が、即死には至らなかったのかその男の体を支えた巫女に手を伸ばし男は言うのだ。

「一緒に生きられなくてごめん」

簡単な任務のはずだったのだ。今まで数え切れないほどの人間を殺してきたし、その中には当然子供だっていた。なのに今更だ。殺すことに抵抗を覚え、後悔をした。後悔をしながら、巫女を殺したのだ。

「なんでだと思う?」

「…俺に聞くのか」
「イタチならわかるかと思ったの」
「そうだな…」


(恋とは等しく残酷であって、ときに僕らを戦う術をもたない只のにんげんにする)


「俺たちが出会ったからだろう」

つまりわたしは、あの男と巫女の気持ちをわかってしまったのだ。自分を、重ねてしまったのだ。わたしはイタチのことが、そしてイタチはわたしのことが、。

言われて気付いたわたしの頬にイタチの手が触れた。その手は労わるように頬を撫でた。


食用
るりこさん 20130221