甘やかな片想い

「きれい、ですね」
「そうかな」
「はい。 とても」

大学生になって入った美術のサークル。そこでやさしく絵に関して話してくれるサイ先輩の絵は、上手いとかすごいというより、きれいなのだ。
元々美術などに触れたこと自体数えるほどしかなかったわたしがこのサークルに入った理由が、サイ先輩の絵だ。
サークル勧誘の時期はどのサークルも部屋を開放していたり作品などを展示している。特にどこのサークルに入ろうと決めていなかったわたしは高校時代からの友人と一緒に各サークルを見て回っていたのだ。そのとき展示されていた絵は、言葉にできない感動を覚えた。絵から息吹を感じたのだ。
そして
「絵に興味があるの?」
そう話しかけてくれた真剣な目と、やさしい表情に一瞬で落ちた。

「…これはね」
「はい?」

「前トゲコが聴かせてくれた音楽をイメージして描いたんだ」
「え、」
「すきな曲らしかったし、僕も少なからずすきだと思ったから。なにより、すきなものからイメージした絵があったりする方がより絵に興味を持てるだろうからね」
「 ありがとう、ございます」
息が詰まる。呼吸が浅くなったみたい。
これが胸が苦しいということなのか。
体の芯が震えるのがわかる。ああ、わたしやっぱりサイ先輩のことがすきなんだ。

「とても、とても嬉しいです」
「 それはよかったよ」

「…はい。わたしサイ先輩の絵がすきですから。サイ先輩のこと、も」
息を呑んだ。最後まで言い切ることがこんなにも緊張することだと知らなかった。途中で冗談だと、誤魔化してしまいたくなった。
けれど、誤魔化しきれる自信もなかった。きっと今のわたしはサイ先輩のことがすきだって、顔をしているから。

「 僕は応えられないよ」
真剣な目が交差する。
「 は、い」
出そうになった涙を堪えようと下を向いて頷けば頭にやさしい手のひらが乗せられた。
ふられてしまったばかりなのに心臓は嫌でも反応してしまう。
恐る恐る顔を上げると、口元に薄く笑みを浮かべるサイ先輩と目が合った。

甘やかな片想い


きっと、トゲコは僕のきれいなところを見てくれたんだね。けど僕はそんな人間じゃない。
そう言うサイ先輩に違うと言いたかった。けれど言えなかった。

切な気な笑みを浮かべていたサイ先輩が、あまりにもきれいで絵の様だったのだから。


存在証明
玲さん 20130218