幻術の中で見せられたことがもし、嘘偽りないものなのだとしたらイタチは多分、苦しそうだった。
どういう理由でしたことだとか何がそうさせたのかとかそんなのはきっと聞いてもこいつの性格上言わないだろう。自分ひとりの中に隠しておくだろう。大して繋がりもない私には言わないだろう。元々イタチを恨み殺すために暁に入った私には繋がりというものはないけど。
「答えはあったか」
「…どうだろうか。取り敢えず、少しは理解した」
「そうか」

数歩分距離を取ると色の引いた目がこちらをじっと見た。
何故だろうか。幻術を見せられた前と今では別の居心地の悪さがある。緊迫感ではない。寧ろ私が勝手に焦っている。別に、唇同士が触れてしまったからではない。これに関してはされる前触れなどなかったのだから私の避けられることではない。

だからそれのせいではない。けど、見せられた幻術にイタチに都合のいい嘘が含まれていたと脳が考えないのだ。あれの全てを真実だったと信じたいのだ。私の脳は、私は。

「トゲコ」
「なんだ」
「気付いていないのか」
「だからなんだ」
そう言うとイタチは唇の間から薄く息を吐いた。溜息のようだったが、不思議がっているようにも見えた。
腕が伸ばされる。暁の羽織がゆらっと袖口が揺れた。
殺意は感じない。そんな理由をつけて私は何故か動かなかった。

指が頬に触れてそのまま目頭をなぞった。
「何故泣いている」
その行為で、言葉で気がついた。
これが焦りの正体だったのだ。だって可笑しい。私はイタチを嫌いなのだ。嫌いで、だから里を抜けてまでイタチを、この男を殺すために暁に。

何故殺したかった?

実は、大好きで、きみがぼくを愛していたことも、ぜんぶ知っていたよ

「どうした?」
微かに首を傾げるこいつに顔がカッとする。在り得ない。自分が女であるようだ。そんなもの棄てたはずなのに。私はこいつが、


20120226