本音とイタチが呟いてから直ぐ視界がぐるぐると反転を繰り返して体が吸い込まれるような錯覚を覚えた。そして足元がしっかりした感覚を得た頃には見覚えのある、懐かしいという言葉では片付けられないほど沢山の感情を覚えた木の葉の里が見えていた。自棄に視界の位置が高い。月も近くに見えている。
どういう状況の視界なのだろう。この辺りはうちはの一角…。視界が急に低くなった。高い位置から地面へと着地したのだろう。これは瞬身だろうか。身を潜めるように視界がとある一軒家の入り口付近で止まる。そこで私は気付いた。この夜は、この視界はあの日のイタチの視点なのだ。

音もなく進入し寝首を人数分掻く。幸い感触は無い。血が噴水のように舞って飛び散る。また別の家では子供も例外はなく、また別の家では不幸なことに目を覚ました家の者。躊躇いを浮かべた目がこちらを見て、何かを発す前に事切れた。
悪夢のようだ。目の前には私の家。私を引き取ってくれた義理の両親の。
眠っている両親。掛け布団に赤い血が滲んでいく。せめて痛みなく一瞬で殺されたことを喜ぶべきだろうか。
視界はどんどん狭くなっているように感じた。この頃からもイタチの目は不が侵食していたのだろうか。それともただ何かを見せないように狭めているのだろうか。よくはわからないが今目の前にはあの日の私が眠っている。
暫くその場に立っていた。暫くといっても5分足らずだろうか。膝を折ったのか私の顔が近くに見えるよになった。
顔に掛かった髪を血のついていない手で払われた。直ぐに視界は高くなり外へと出た。
今の仕草がどういう意味を持つのかもよくわからない。でもこの先はどこに行くのかわかる。視界の先にはイタチの家だ。
この先を見るのだと思うととても辛い。義理の両親より可愛がってくれた家、空間だ。イタチがどういう風に考えて思ってやったことなのかそれを知りたいとは思うけど、覚悟はきっと何時まで経っても出来やしない。こう考えるとイタチは酷く忍に向きすぎている男だ。
「なんで、見せたの」
「話すより早い」
イタチの家の敷居を跨いで直ぐ、現実へと戻ってきた。このタイミングで戻されたのは見られたくない何かがあったのかもしれない。うちはサスケ。うちはの能力を持たない私ともう一人残された、正真正銘のうちは一族。サスケならばその何かを知っていたのだろうか。今となっては目の前のイタチに確かめたほうが早いだろう。
「…イタチ」
「なんだ」
あの頃小さかったトゲコは今こうして俺を殺すため里を抜けてくるまでになったと思うとあの日が大分昔のことのように思う。目を閉じれば鮮明に蘇ってくるあの夜は視力が下がった今でも薄れない。目を開ければあの頃となんら変わらなく俺の中に居るこいつが憎たらしくも思う。
「近、い…」
見下ろせばうろたえた視線。差は縮まってもやはり背は低く容易く腕に収まる。

あなたの傷んだくちびるはぼくのせい

あの夜にはなかった唇の噛み傷。恐らく何度となく悔しさや憎しみで噛んだときの痕だろう。触れるとびくりとトゲコの肩が大きく揺れた。

「俺のせいか」
「…だったらなんだ」
「悪かった」
謝罪と同時に身を屈めて触れるだけの口付けをした。
「…今のための、謝罪か」
「どうだかな」
お前の中から俺を消せなかった事に対してだとは言えない。


201111204