暁に新入りがという話を鬼鮫から事前に聞いては居たしそれが自分と同じ里の者らしいとも聞いていた。けれどそこまで興味は無かったし支障がないならばお披露目の機会に出向かなくてもいいとさえ思っていた。
結局任務関係の事柄でアジトに行く機会とお披露目の日日が近かったので俺は休息とばかりにお披露目迄の数日をアジトで過ごした。そしてその日。
「新入りだ」
「うちはトゲコ。木の葉の出だ」
そんな愛想の無い挨拶とも言いがたい挨拶。周りは名がうちはという事でざわついた(主に飛段とデイダラ)が恐らく俺が一番驚いていただろう。
うちはトゲコ。うちはのはみ出し者と良く嫌な言い方の噂を聞いていたし俺はトゲコを知っていた。数回、修行を付けたことも合った。俺を名前で呼ぶ数少ない、そう友と言える年下の。あの夜、うちは一族を消すという任務が下った際に手を掛けることをしなかったサスケ以外の人間だった。
そのときの上は大分渋っては居たが引き取られただけの血筋はうちはではないという事が決定打となって俺の意見は通された。サスケに関してはどう言ったところで逃れようの無いことはわかっていたので意思を述べることはしなかったが。
残酷な話だ。本当の両親は戦死、引き取られた先の家族も一族も無い。その上本人の命まで取り上げる必要は無い。正直一人で生きていくならと殺すことも考えたが自分への甘さだろう。出来れば手に掛けたくないという意思が表に出た。それが数年してこうして暁となり自分の前に立っている。その状況に少し嬉しいとさえ感じた。
俺を真っ向から憎む存在が居る。それは救いにも等しく感じた。
「話がある」
「何の話だ?」
「あの夜の話を」
あの時殺さなかったトゲコを今更殺そうなどとは思うまい。ただ誰かに話を聞かれては面倒だと思い俺は写輪眼を発動し幻術の中へとトゲコを引きずり込んだ。
「!」
体の筋肉という筋肉を硬直させるような緊張した面持ちになるトゲコに俺は内心自嘲がこみ上げた。あと何度こういう場面を俺は見るのだろうな。

「私を殺す気?」
「嫌、話をするのだろう?」
「…話をしていいのね」
「ああ」
こいつの話ならば幾らでも聞いていよう。まだやらなければいけないことは多くある。殺されることは少々困ることではあるがそれが終わったならば殺されても文句はない。
「殺した理由は聞かない」
「何が知りたい」
「私を、殺さなかった理由」
「聞いてどうする。俺を殺すか」
「サソリと話す前はそうも考えた」
「?」
「今は二択だ。話を聞いてから決める」
「そうか」
「話して。早く。私は、イタチから話を聞くために里を抜け暁に入ったんだ」
「馬鹿だな」
馬鹿だな、そう言ったイタチの表情がいつだか遠い昔が蘇った様で私は泣きそうになってしまった。泣きそうになったのはあの夜以来だ。泣かなかったのは、涙も出てはくれなかった。もう何も出てはくれなかったから。声も暫くは枯れていた。
いつも自分が泣く理由は目の前のこいつなのだと思うとほとほと自分はイタチが大切だったのだなと思う。
「…理由」
「そうだな、お前はうちはの養子となっただけで血の繋がりなど全く無い他人だからだ」
「なっ「というのは表向きの理由だな」
「な、に…表向き?」
「…殺したくないという単なる俺の我侭というのが本音だな」
自嘲にも聞こえた呟きになんて反応をしたらいいかと戸惑ったら言葉を発すのが遅れてしまった。こんな馬鹿な話があるか。寧ろ最初に話された表向きの理由とやらの方が真実であったならこんなに楽なことは無かった。
そうすれば自分はイタチを憎みながら、殺そうと考えながら生きてゆけたのに。

きみのとなりにいてきみをだきしめたかった
一族の血で元の色など薄らとしか見えなくなった服、鉄の匂いに濡れた身体で、眠らせたお前の枕元に立ったときどれほどそう考えたかなど最早わかりはしない。一度考え手を見てもう違えるしかない道を確信しまたお前を腕の中に収めたいと繰り返した。酷く愚かで滑稽な話だ。一族を殺し、里を抜ける夜に俺はトゲコを友としてではなく異性として惹かれていたのだと知ったのだ。


20111111