中忍になったばかりで一週間ほどのそこそこ長い任務を終えたばかりの私は、里に帰ってくるなり緊張の糸が緩んだように肩の力が抜けた。この里はどこを見ても記憶の中にある風景ばかりで、懐かしさや安心感で溢れているのかもしれない。過去に大蛇丸の襲撃で三代目火影さまが亡くなったことも知っているけどそれでも里が攻め込まれたとしてもきっと皆で、なんとか出来るような、そんな気もするほどだ。
疲れたなぁと、肺の中に溜まった酸素を吐き出して、火影さまの執務室のドアをノックする。中からはきはきとした声で「はいれ」と言われて任務後の疲れた顔から表情を切り替えて「失礼します」と執務室に入ると執務室には既に見知った顔が報告書を出しているところだった。
「お、帰ってきてたのか」「今ね。火影さま、報告書です」
私に気がついた同じく中忍のシカマルが振り向いて軽く手を上げた。私はそれに自然と口角があがる。懐かしい、安心、それと同時に腹の底からの好意のせいだろう。久しぶりに会ったので軽く声を掛けて報告書を火影さまの手に渡す。
シカマルのほうの報告書に目を通し終わったのだろう火影さまがデスクに肘を突いて左の口角をニッと上げて唇を薄く引き笑いながら「ごくろう」とシカマルに言う。シカマルはそれにどうも、と軽く頭を下げて私の横をすり抜けて執務室から出て行った。
その途端、火影さまが喉の奥を鳴らすようにくくっと小さな笑いを上げた。
「火影さま、?」「ああ、いや何、あいつの反応がどうにも可笑しくてな」「あいつって、シカマルですか?」「そうだ。…くくっ」「…いつもと同じように感じたのですけど」「そうだな、お前にはわからんだろうなぁ」

にやにやと意地悪く笑う火影さまはとても楽しそうに「戻っていいぞ」と言った。結局気になるとこまで話しておいて全ては教えてくれない気だ。私はもやもやを残したまま、頭を軽く下げて執務室を出る。
「何眉間に皺寄せてんだよ」
と、執務室のすぐ横にシカマルが壁に背を預けて立って居るのだ。一瞬間近で聞えた声にびくりと肩が上がった。
「や、ちょっと火影さまが、」「…火影さまも余計なこと言うなっての、たく」「は?」「まぁ、いいか。どうせお前が帰ってきたら言うつもりだったしな」
にやり。頭ひとつ分ほど私より背の高いシカマルは口角を上げて目を細めながら笑った。それがどうにも魅力的で、任務疲れの私には幻聴が聞えてくるほどに格好よかったのだ。

みんな格好悪いから言わないだけ。わがままなんて頭の中じゃ百万回もとっくに過ぎてる。

「俺と付き合う気、あんだろ?」


にやり
20110206