目の前を歩く、今まで何度だって見てきた猫背な背中。いつも面倒そうに手をポケットに突っ込んでいる筈のシカマルが、両手をポケットに入れて頭が下を向いているところを見ると、きっとまた何か考えているんだろう。

「シーカちゃん」

「…」

後ろから声を掛けても返事をしないシカマル。まさか、私だということに気づいてない、なんてことはないことを願う。幼馴染というほど付き合いは長くないけれど、家は近所だしそれなりに仲はいい(つもり)んだから、多分面倒で返事をしてくれないとかそんな感じだろう。

「シーカーちゃーんー」

「…」

声をかけても返事をしてくれずに無視を決め込むシカマルに、元々理由もなしに声を掛けていたはずの私もムキになって、前を歩くシカマルの横に並んで顔を覗き込んでやるとシカマルはやっぱり眉間に皺を寄せていた。

学校帰り、制服のポケットに手を突っ込んでああ空が高いなぁとか考えながら帰っていると耳になじむ名前の、俺を呼ぶ声が聞こえた。けど、俺はどうせなんとなくで話しかけてきているんだろうと考え、無視と言うよりも関わらないことにした。何故かっていうと、本当に用事があるなら何度だって声を掛けてくるはずだし、名前がムキになって俺を追いかけてくることは目に見えている。

しばらく無視を続けているとやっぱり名前はムキになって俺の横に並んできた。高校生になった今でもシカちゃんシカちゃん言うこいつの口を塞いでやろうかとも思ったけど、どうせこいつはそんなつもりでいるわけじゃないから俺は用事を話されるまで意識を考えに集中させていた。もし、名前に何かあればすぐに反応する自信もあった。

「シカマル」

ちゃんと聞いてるの?ぼーっとしてるとその内扱けるんだからね。そう言いながら俺の前に立ちはだかって手を広げている名前に、集中力を切られた俺はため息を吐きながら「お前、馬鹿だな」なんて言う。だってそうだ。
すぐに反応する自信があるとか思っておきながら、名前が俺の名前を呼び捨てにしたことに面食らってそれしか言えねぇんだから。

何回も俺の名前呼んで、そんな俺に構ってもらえないのが嫌なのかよ?そんな俺の意地悪な問いに頬を少しだけ赤く染めて名前がかわいくそうだよ、と言うもんだから俺はその赤く染まった頬を抓ってやった。

お死まいにしたくない恋だってある

そんなかわいいこと言ってっと手ぇ出すぞ。おい。


伯爵
20110211