一つ一つの個室から漏れ聞える会話が集まり耳に届く雑音を蹴散らしながら、さっき注文したサーモンの刺身に箸を伸ばしている名前をちらりと見やりながら残り半分になったビールのジョッキを掴んで喉に流し込む。喉を鳴らして流れるそれに仄かな苦味を感じつつ、これが美味いと思うような歳に俺もなったんだよなぁと思いながら、ジョッキに付着していた汗で底を描いているテーブルにまたジョッキを置いた。先ほどの半分程になった金色の様なそれを視界の端に映しているとカランと氷が溶けて崩れたような音が聞こえた。

「追加するか?」

「んー、…」

グラスの底から水面へと上がっていく炭酸。そのきらきらとした酎ハイをごくりと名前が喉に流し込む度に喉が小さく動いて、思わずその仕草に喉が鳴る。高校の時に知り合い、卒業して疎遠だった名前とこうして飲むようになったのはめんどくせぇ同窓会という奴で再開したのがキッカケ。それ以降は多くて月に2回のペースでこうして飲みに来ている。俺としてはもう少しこうして名前と飲みに着てもいいところだが俺ばかりの都合で誘うわけにも行かない。俺の中で燻り続ける名前への感情を名前に気取られないようにするには結局この位のペースが丁度良かったりする。最も俺を友人としてしか見ていないこいつが俺の感情に気づくのは零に等しいと思うけど。

きらきらとしたその液体が小さくなった氷と一緒にその唇の中に吸い込まれていくのに釘付けになってしまっていた視線を慌てて本人に向けると空になったグラスをトンっとテーブルに置いた名前は数秒考えて「じゃあ、カシス」とその濡れた唇を歪ませて言った。

「シカマルさぁ、」

「なんだよ」

「飲む時いつも考え事してるみたいだよね。なんか相談あるなら言ってくれていいからね」

「…ああ、」

頬杖を着きながらそう言った名前を見て注文をする為に呼び出しボタンを押した俺はもう残り少ない金色が入ったジョッキを掴んで残りを喉に流し込みながら思う。名前の事がすきなんだけどそれでも相談乗ってくれんのかよ?なんて言葉も一緒に飲み干さねぇとな、と。

飲み込んでゆくのに

溢れ出る下心。


alkalism
20110213