その日の任務。言い渡されたのは元同期の名前の処理だった。
アカデミーを出たタイミングこ違えど結局は餓鬼ん頃から一緒に居た奴だ。それをまさか自分の手で処理をすることになろうとは。忍の世界ってのは時々どうしてこんな酷な状況になるんだ。

「奈良さん」
「なんだ」
「今回のターゲットはその、」
「…ああ、俺の同期だった奴だ」

ターゲット。つまりは名前を追いかけながらマンセルの内の一人が声を掛けてきた。俺は苦虫を潰したような思いで答える。木々の隙間から空を見上げればいつもはきれいなお天とさんも嫌な雲行きの裏に隠れてる。
俺が答えると直ぐにもう二人のマンセルと目配せをしてそいつが言った。

「俺らは別ルートから追い込みますので奈良さんはこのまま行って下さい」
予定とは違う作戦だった。が、それが俺の心境を考えての発言だということは直ぐにわかった。痕跡からすると名前が居るのは数メートル先。別ルートから行けば確かに回り込むような形にはなるが確実に俺が接触するのが早い。

「お前なぁ」
「俺らは、見つけたら即対処します」
「…」
「だからその前にリーダーである奈良さんが対処していて下さい」
言うや否や三人は直ぐに姿を消した。
あいつらの言うことはつまり、せめて殺してしまうことになるなら自分の手で。そんなとこだ。けど生憎俺はそんな度胸を持ち合わせているような立派な忍じゃねぇ。
俺にとっちゃ同期は、簡単に切り捨てられるもんじゃねぇ。が、火影の命は絶対。やるしかない。

余計に気の利いた部下のお陰でざわついた心境のまま俺は名前を見つけてしまった。名前は元々足の速いほうではない。力というよりは術に長けている奴だった。けど欠点があった。
こいつは自分の判断で処理するべきだと判断できない限り、敵でも助けてしまう。

「…やっぱりシかマルかぁ」
対峙すると途端張り詰めていた名前の表情が和らいで居心地が悪くなる。

「名前、火影がお前を処理すると命を下した。俺はそれを全うしなきゃいけねぇ」
「うん、わかってる。悪いのは私だからね」

俺の術を知っているこいつが上手く掛かってくれるか危うかったが俺は木々の陰を利用して足元から影マネを仕掛けた。が、名前は笑ったまま術に掛かった。
影マネを掛けた瞬間、確かに名前の目線は自分の足元を見ていたのに、だ。

「お前、」
「こうなるってわかった時から殺されるならあんたがいいって思ってた」

いい忍になるには幾つかの条件がある。その中でも強い忍、里に貢献できる忍が兼ね備えているのは自分の感情をコントロール出来る奴だ。
忍に感情は不要。
不要だ。んなのはわかってる。わかってるが…。

影マネの術から連動で影首縛りを掛けると名前の表情が苦しくなった。当り前だ。
首を絞めて呼吸をさえぎっている。それに抵抗の意思を示さなければ幾ら力が弱い術とはいっても。

「シカ、マル あのね、あのね、わたしっ」

心は不要

あんたがすきだったよ。
俺は忍の世界のこういうとこが大嫌いだ。


容赦ください 20110506