秋の訪れに、その先の冬を恋しく思いながら揺れるバスの外を眺める。友人と久しぶりにお茶をして、ショッピングを楽しんで、募る話もあったり。
それを帰り道バスに揺られて外を見ていると思い出されて、ほんの少し目の奥がツンとした。友人の悩まし気な表情だとか、言葉だとかを聞くとどうしてか自分までがそれに同調してしまう。相手の悲しみだとか淋しさを知ることなんて無理なんだと、その痛みは本人だからこそなのだとわかっていながらもそれは流れ込んでくるように私に伝わってくる。そしてそれは決まって、なんとも言いがたい悩みなのだ。何を言っても正解で無いような、しかしどれでも正解になりうるような。つまりは、本人次第、考え方次第なのだ。バスに揺れが感情の波の様に私の中で揺れる。こういう時に限って私は家に居たくないなんて思う。家に1人居るのはなんだか寂しく感じるのだ。自由、それもすきだけど今はひとが恋しい。…寒くなってきたからだろうか。
家の近く、けれどひっそりとある赤煉瓦の美術館が視界に入った。芸術の秋。少し早いけど家にいても家族が帰るまではもう少し時間がある。どうせなら行ってみようか。この寂しさも紛れるかもしれない。
そうして行った美術館は名前の知らない人の作品がずらりと並んでいた。理解の難しいものから、きれいとしか表現の出来ないもの、そういったものに興味のある自分としては影響を受けたいものも多数あって、私はゆるゆると美術館の中を歩いた。見て回るというのもある。けれど、どういう事を表現したくて描いたのだろうと考えるのも時間を忘れて過ごせた理由のひとつだった。
美術館の入り口が開いて、入り口付近に立っていた私の頬をひんやりとした風が撫ぜた。ず、っと鼻の奥が小さく鳴る。こつんと小さな靴音がして視線を向ければまさに美術館に似合う色白の、きれいな顔立ちをした男の人が目に入った。
年齢は…私より少し上だろうか。否、もしかしたら同じ位かもしれない。兎に角動きがきれいなひと、だった。

目の奥でものを見ている子と思ったのは、二階から吹き抜けで見える一階を何と無く見下ろしたときだった。特にイベントも設けていない今日はいつも通りと言ったらよくないかもしれないけど、お客さんは少ない。その中でも若い人が来るのは中々貴重で。だからか、ボクの視線は自然とその子に向いた。白い肌に、艶のある鎖骨辺りまで伸びた黒髪は若干幼さも感じられる顔をより印象付けるものだった。作品よりも彼女に釘付けになりながら階段をゆっくりと下りて、彼女の正面に行くように遠回りをして、入り口を横切る。目が合った。

彼女の白い肌を染めるように目元だけが薄っすらと桃に色づいている。気のせいか、鼻の頭も。

うさぎみたいだね通るような声が聞えて、それが彼から私へ向けられたものだと気付いた。なんて反応すべきかわからなくて、小さく吐息だけが漏れる。彼は口角を微弱に上げ、目元に弧を描いて薄く笑った。


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20110214