「泣いたって意味ないんじゃねぇの」

すきならそいつにそう言えばいいだろ。落ち込んだ時、気まぐれを起こしたときによく行く屋上へ続いている階段の一番上に腰を下ろして、膝に顔を埋めていると頭上からぶっきらぼうな声が降って来た。「…んで、」「あ?」「なんで私が泣いていると思うの」
泣いてないかもしれないじゃないなんて言う私の声は、自分で自分の弱さを表に出しているような涙声だった。
「名前なぁ、」
昔は皆で馬鹿ばっかりやっていた。その中のひとりキバに、今は諭されるようになった私は自分だけ成長できていないような気がしてならない。
けれど、キバが悪いのだ。実際、キバの声が聞えるまでは涙は瞼の裏でたぷんとしていただけだった。それが、キバがぶっきらぼうな声でやさしさを纏わり着かせたように声を掛けてくるから、声なんか掛けてくるから。

「教室戻んなさいよ」「…」「ヒナタ、待たせたら駄目よ」

私が、キバなんかをすきになったから。けど、どうしてすきにならないでいられたのだろうか。

「ヒナタなら待っててくれる」「…」「それに泣いてる幼馴染みをほっとけるわけねぇだろ」

やさしくてもなきやめない

隣に熱が腰を掛けた気がした。赤丸の匂いも混ざったキバの匂いが近くでして、スカートにはぽつぽつと染みが出来た。
やっぱり私はキバのことがすきらしい。


シュロ
20110206