「もうわかってんだろ」
「なにが?」「こんなとこに居たってカカシは来ない」「だから?」
去年も言われた言葉だった。それなのにわからないふりをしてしまう自分が情けない。でも私は今居る場所から動こうとは思えなかった。
カカシ先生は幼馴染サクラのチーム、7班の担当上忍だ。そしてコピー忍者と名高いエリートで家は私の家の隣。幼馴染の先生がご近所さんなんて変な感じ。けれどそれは酷く羨ましいことだった。
しゃがみこんで地面を見つめている私の前に回り込むサスケは知り合いだ。友達とも仲間とも違う。認識としては会う何故か頻度の高いサクラの片想い相手といったところ。会えば話すだけの関係だ。
「お前はそれでいいのか」「…そんなっ、の」
地面を見つめたままの私の頭に手を乱暴に乗せながらサスケは呟いた。静かなこの場所には酷く響いて聞えたその言葉は、嫌なとこを突いてきた感じだ。
そんなの、…私はなんて続けようとしたのだろう。わかってるとでも私は言うつもりだったのか。
サスケには関係ないと逃げようとして、その言葉は飲み込んだ。名前がつかない程度の関係であるサスケが関係ないならばカカシ先生も同じく関係ないということを知っていたから。
「わかってる、わかってるから」
地面さえもがじわりと滲む。視界が揺らいで、下を向いたままだった目から涙が地面に落ちて、地面の色を変えていく。
わかってると呟く名前の声は泣いていて小さく舌打ちをした。泣かしたのは俺だ。だが理由はいつだってあいつだ。去年アカデミーを卒業して数日経ったある日に名前が7班の担当かカカシというのをサクラから聞いたときもこいつはこんなだった。ショックを受けた顔して走って逃げやがった。その時一緒に居たナルトとサクラに一緒に探すように言われ結果こいつを見つけたのは俺だ。そしてそのときに気づかされたのも俺だった。あのときから俺は名前を見ると苛々が止まらない。妙にこいつの言動が気になる。知らん顔してやるのもそろそろ限界だ。

「言えばいいだろ」
サスケはぶっきらぼうに、愛想なく言葉を吐いていく。視界の向こうでサスケの口から吐き出された二酸化炭素が白く見えた。そこで私は漸く寒いという事実を思い出した。思わず、ズッと鼻の奥が鳴る。
「…カカシがこっち見ている。俺はもう行くからな」
「どこ、行くの?」「どこだっていいだろ」「なん、で?」

「お前が連れ戻してほしいのは俺じゃないんだからほっとけ」

君だけが変わらない

カカシの前でこいつを腕の中に収めるのさえ癪だった。名前に背中を向けて歩き出す。呟いた言葉の意味に気づけと変化を相手に託しながら。


20110209