うちはイタチ君。私を含めたうちは一族は優れた忍だと言われているけどその中でもイタチ君の才は秀でていた。というよりは自分が凡人だったのかもしれない。だからアカデミーで席が隣だったときは嬉しかったし同じ一族ということが優越感でもあった。比べられることは最初から予想出来ていたしそれは同じ一族でなくても仕方ないと思える差だった。実際、イタチ君は通常の何倍もの早さでアカデミーを卒業し暗部に所属した。
暗部に所属して少し経った頃、嫌な噂が耳に入った。イタチ君が友人を殺したとかいう、ふざけた噂だ。彼は確かにあまり騒いだりするタイプでもなければ多くの人と話すタイプでもないけれど人に嫌われるようなことをする人間ではないのだ。
そう思っていた私がとある日修行をしていた時イタチ君に会った。これは運命ではないかと、勝手に浮かれてつい、声を掛けた。

「イタチ君」
「…ああ、名前か」
「久しぶり、なんか最近忙しいみたいだね」
声を掛けるとイタチ君は忙しいだろうに歩みを止めてこちらを向いてくれた。なんだかやつれて見えるのは痩せたからとかではなく雰囲気のせいなのかもしれない。以前のイタチ君とはどこか違うような気さえした。
私にとってそんな彼の印象は、ここ最近ちゃんと笑っていなそうな感じ。笑ってほしいと思った。

「…イタチ君あのさ、」
笑わせるといってもそんな簡単に思いつくはずも泣くなんとか時間を稼いでしまおうと思った。けど、自然にうつむいていた顔を上げるとイタチ君は薄く笑って言った。

「悪いがそろそろ行く」
「あ、うん」
そう言うとイタチ君はもう居なくて、流石というよりも先に涙が出てしまった。風が吹くのと同じように消えていったイタチ君が本当に消えてしまうのではないかと。私は、すきだったのだ。うちは一族の誇りとかそんなものではなく単純に、すきだった。



イタチ君と話をして1週間と経っていない夜、私は彼に会った。怖いくらいに綺麗な月を背負った彼は、表情がまるで無くて、ついこの間笑んでくれた彼と本当に同じ人なのかと疑ってしまいたくなるほどだった。天才だ天才だとは思っていたけど向き合っているだけ、ただ殺意を向けられているだけが、こんなに足が竦むものかと。一瞬で殺されなかったのは欠片ほどでも躊躇ってくれたからなのか。
これは最後だ。私の最後。わかってしまえた。だから静まり返るこの土地で最後に彼の彼らしい表情が見たかった。

少しだけ君を困らせたい

「しあわせになってね」
イタチ君の眉が微かに動いて意識が途切れた。


うきわ 20110425