名字が泣きそうな怒ったよな顔して俺をすきだと言ったのはそういや何ヶ月前だ?
そんな下らないことを考えたのは髪を耳に掛けるそいつの横顔を始めて見た気がしたときだ。
結局、そん時はそいつのすきの言葉もなにも俺には響かなくて適当な返事をした。寧ろなんつったかも曖昧なもんだから返事してりゃいい方。
「赤砂」
「あ゛?」
でもこいつはしつこいのか馬鹿なのか懲りずに声を掛けてきては馬鹿みたいに笑う。今日以外も学校からの帰路は時間が合えば毎日のように。
「でさ、今日の家庭科で」
下らない内容で笑うこいつは理解出来ない。
「…お前さいつも笑ってるな」
疑問に思っただけ。が、こいつにとっては致命的な指摘のように表情がぐにゃり歪む。歪んで歯を食いしばるように勝手に泣いた。
「すきで!…すきで笑ってんじゃないわよ」
「じゃあ笑う必要はねぇな」
「…笑う以外、どうしろってのよ」
悲しいってのは形にするとこんなかと思う顔しながらボロボロ泣く目の前の奴が女だと俺は漸く認識をした。
俺をすきだと言った、女。

「ああ」
「…なに、」
「否、悪い」
「なに、が」

そう考えると目の前の女が急にいとしく感じられた。俺も結構単純な造りをしてたらしい。
目を閉じてもこいつがどんな顔してんのか見える。そんぐらいには意識してる。

「…泣き顔、悪くねぇ」
「ばっ!」

閉じても見える

俺の軽口に顔を赤くすんのも予想するのは容易い。そう思う自らの感情を言葉にするのは例え困難だとしても。


くのいち
20110919