昔、近所に住んでいた優秀な忍で私が兄のように慕っていたひとが突然里から姿を消した。私はその頃なにも考えずへらへらしながらアカデミーに通っていて数ヶ月の間その人と顔を合わせることもしてなかった。
どうせ家から五分くらいの距離だ。いつでも会える。それが叶わなくなったのはあまりにも直ぐだった。当時適当にしかアカデミーに通っていなかった私にはとても追いかけることの許されない大罪人に彼はなった。
それから数年。私もまた大罪人の一人となった。

「訳を話してよ」
詰め寄って問いただしても彼は…イタチは表情を変えずに「話さない」の一点張りだ。私は訳を知りたいが為だけに里を抜けたというのに、だ。
しかもイタチのよくないとこは、否昔からのよくないとこは、「嫌いになるよ」とか「教えてくれないなら殺すかも」と言っても可笑しなくらい穏やかないとしいものをみるように「すきにしろ」と躊躇いもなく言ってしまう優しさなのだ。

「…殺すなんて出来るわけないよ。わかってて言ってる?」
「俺は単に、お前になら殺されても文句がないだけだ」

「ならっ!…なら、イタチの変化に気づけなかった私を殺してよ。そして恨んで死体を生き物に食われるまで放って」

わかってくれないイタチへの苛立ちやあの頃平和過ぎた自分への苛立ちを吐き出すように、諦めるように投げやった言葉だった。
だけど私は馬鹿だ。あの頃も里を抜けた今も結局優しさで育った忍でしかないのだ。

「お前を殺せても、俺にはお前を捨てることはできそうにない」

そんなことを言いながら申し訳無さ気に私の頭を撫でるイタチの思いをまるでわかっちゃいない。


ゴーストとワニ革
20110929