今日こそは対等だって証明してみせる。そんな風に意気込んで私が向かったのは化学担当のはたけ先生の処。つまりは化学準備室だ。今日は私にとって最後の勝負の日。そう決めていたからいつもは隠している緊張があふれ出してしまいそうだ。

「先生」
「またなの」

「またってなんですか」

別に良いじゃないですか、話に来るくらい。そう開き直る私を見る先生は眉を下げてマスク越しに溜息を吐いた。淹れたばかりなのだろうか、湯気の立って居るコーヒーカップからはまだ私が苦手なブラックコーヒーが入っているみたい。

「で、今日はなんなの?」
「付き合ってください」

ここに来るたびにするこのやりとり。最初に告白をした時は一瞬驚いた表情をしてすぐに「ああ、お前が大人になったらな」なんて冗談を受け取るみたいに答えた先生も、私が本気だと分かった今は全く取り合ってくれない。やさしく「大人になったらな」なんて言ってくれたのは私の告白が冗談だと思ったからで、本気だとわかってからは期待する言葉さえくれない。授業中だって、そんな会話はなかったとでもいうように他の生徒と同じ扱い。告白をする前とした後、何も変わらないのだ。

でも、交わされてばかりも流石に傷付く。例え私が先生にとっては1生徒で子供にしか見えなくても私にとっては真剣なのだから。先生とこうして話したり過ごせるのも、今日で最後。今日で私はこの卒業してこの学校ともさようなら。学校に居場所がなくなってしまうのだ。

もうこうしてしつこく告白をすることも出来ない。校舎に入るのも、躊躇うようになってしまうのだ。

「本気なんです、子供扱いは辞めて下さい」

卒業を意識した私の言葉が上擦ったのに気付いて、はたけ先生はフっと顔を上げて私の方を見た。笑顔を作って細く溜息を吐きながら「名前」湯気の立って居るカップを置いた。面倒だと思われての反応だとわかってはいるのに、その先生の仕草にどうしようもない鼓動の高鳴りを感じる私はもう駄目かもしれない。

馬鹿だね

大人になるまで待てって言ったでしょ?あと半日くらい待ちなさいよ。
そう言いながら私の頭を撫でた先生はやっぱり大人だ。


20110303