学校の帰り道。
電車から降りて夕焼けに照らされた道を歩いていると、前を歩く幼馴染の名前の後姿が視界に映った。

声を掛けようと思ったが、数歩先を歩いている名前は俯きながら歩いていて、どうしたんだろうと気になって見ているとすんすんと泣き声まで聞こえてきた。そこで、俺は気づいた。名前が、前々から思い寄せていた隣のクラスのヤツとなにかあったのでは、と。先週たまたま学校に行くときに会ったときは告白をするか悩んでると言ってた。きっと想いを伝えたのだろう。そして名前にとってはよくない結果に。俺にとってはいい結果に終わってしまったのだろう。
そんな気づかなくてもよいことに気づいてしまい、元々声を掛けにくかったのが余計に声を掛けられないような心境になった。名前はきっと今悲しい気持ちで一杯なんだろうと、名前の背中を見ていることしかできなかった。

けれど、目の前を歩く名前はぴたりと歩を止めた。距離が詰まってしまうのは気まずい気がして、俺も立ち止まる。

「私の幼馴染は慰めてもくれないの?」
「…大丈夫か?」
「誠意がない」

ぴたりと止まったまま、俺に背を向けたままで名前は不機嫌そうに涙声で呟いた。名前の影が伸びて俺の影の頭の部分に重なっている。俺はその重なっている辺りをただ見下ろしながら、言う。

「誠意は、難しい」
「なんでよ、いいじゃん。もう、相談とかしないから、今日くらい慰めてよ、っ」

スカートの裾をぎゅっと掴んで俯いている名前が、視界の端に映って俺は心臓を掴まれたような気持ちになる。

「無理、なんだ。名前は、 俺は、名前がフラれてよかったと思っている」

「 なんでよ!なんで、そんな っ」

言えないとばかり思っていた感情が抑えなきゃいけない思いになる。このまま言葉を飲み込めば苦しくなると思い、止めておけなくなって、言葉にしたとき、名前は漸く俺の方に振り向いた。涙をいっぱい溜めた目で俺を睨む名前の鼻のてっぺんは、泣いているからか赤く染まっていて、俺はまた苦しくなる。
自分でもそういう顔を自分がしているのがわかる。

「俺は、」

舌足らずな恋

「俺は、すき…なんだ。名前のことが、」


20110212