あの時も今日みたいに綺麗に空が晴れていた。太陽は白っぽくて、空の青も夏と比べるとずっと薄くて、私のすきな色をしていた。それを覚えているのはきっと、カカシが今日も帰ってきたとき、気持ちよく眠れるようにって布団を干したからなんだろうなって思う。私は直接関わりを持ったことは無かったけれど、カカシの口から出てくるオビトという名前には何度も嫉妬したのを覚えている。けれども、オビトが亡くなってから、カカシはそれ以前よりももっともっとその名前を口にするようになって、亡くなった原因を考えてはすぐに頭を抱えていた。

けれども生きている私たちは歩をとめることは出来なくて、いつまでも同じところで立ち止まっているわけには行かないからって、カカシは毎日のように任務へ行っては会う時間を出来るだけ作ってくれて、今日はチャクラ使い過ぎちゃったよ、とか言ってくれる。

「大丈夫?なんか、最近疲れてない?」

表情暗いよ?なんて心配そうな顔をしながら顔を覗き込んでくる名前に、心臓が苦しくなった。それは勿論、このとき既にオビトの亡くなってしまった原因は仲間を大切に出来なかった自分のせいでもあるということを知っていて、サスケの精神状態が大蛇丸の強さやナルトの成長に焦りを抱いていたことに気づいたからだった。

オビトのことを直接は知らなくても、名前は俺の口から何度か出てくるオビトのことを知っている。そして、俺がどんなに堅苦しい考えを持っていたかも。実際俺を支えてくれたのは、オビトの存在と四代目の存在、名前の存在だ。だからこそ、話を聞いてほしいとも思ったし、大丈夫だよって、俺の考えを理解してほしなっても思った。

「名前、俺ね」「うん?」「あー…やっぱりなんでもない、ごめーんね」

けれど、名前を巻き込んじゃいけないことも俺は悲しいくらいにわかっていた。せめて俺を心配そうに見てくる名前にはちゃんと笑っていてほしい。大切な人を巻き込んで、迷惑をかけちゃった俺だけど、そう思うくらいは駄目じゃないと言って欲しい。

「無理は、しないでね?」

カカシはあんまりそういうの言わないで抱え込むんだから、なんて笑いながら言う名前がどうしようもなくいとしくて俺は名前が大切なんだと思い知らされる。無理はしないでと言われてもある程度は無理をしないと成し遂げられない任務があるとか、それをするのが俺の役目だとか俺は話してはあげられないけど、でも、名前はやっぱり俺にとって大事だよ。

「名前、すきだよ」

カカシの顔を覗き込んでいた私を、長い腕を広げて腕の中に閉じ込めたカカシ。私の首に顔を埋めながらすきだよと呟いたカカシはなんだか泣いているようにさえ思えた。
私はその理由を聞きたいと思ったけれど、きっとカカシから話してくれないことは私が聞いても無理だと思うから、私は一般人だから、ただ私もすきだよ、って抱きしめ返すしか出来なかった。

俺を抱きしめ返してくれた名前の細い腕、小さい体。俺は何度俺よりも小さい名前に支えてもらったんだろうね。そんなこと考えても全然わかんないけど、わかんないままでもいいかなんて思う。だって、どんなに考えても、俺は明日結果的に名前と離れてしまうことを選ぶから。

「じゃあ行ってくるよ」「うん、倒れないようにね?」「大丈夫でしょ」

これからを確実に約束することが出来ない。Sランクの任務の度に名前が苦笑いを浮かべているのを見ると心苦しくなる。待ってて、を言ってあげられない俺を許してね。でも欲を言うなら、しあわせになって。

後ろ姿がこんなに苦しくなる日が来るなんて、知らなかったよなにも知らない、なにも聞いてない。でも、こんなに不安な見送りは初めてで、私は今日も疲れて帰ってくる筈のカカシを、ずっと待っていた。昼間干したふかふかの布団の上で1人。


誰そ彼
20110210