「彼女と別れたってほんと?」「うん」

「じゃあ次は私を彼女にしてくれる?」「うん」「ね、カカシ次は私を彼女にして?」「うん、いいよ」

一ヶ月か二ヶ月位に一度は聞く会話だ。そしてその会話の中心に居る男も、決まって同じ。

「おはよ」「おはよ。何、機嫌悪そうじゃない」
教室に入って直ぐ、席に着こうとカカシの席の目の前を通ってカカシの隣の席の椅子を引いて座って声を掛けるとカカシは余計なことを言ってきた。全く誰のせいで機嫌悪くなったと思っているんだと、それに小さく溜息を吐きながら適当に返せばカカシはじっとこちらを見てくる。そんなに私にばっかり声を掛けていると女の子が諦めて出て行ってしまうぞ。というか見たことの無い女の子たちだったけどあれは同学年なのだろうか。
「朝から機嫌悪いな」「学校着て直ぐあんな会話聞けば誰だってさわやかな気分にはなれないでしょ」「ああ、悪かったな」「謝るようなことしたの?」「してないけどね」
机の横に引っ掛けた鞄の中から教科書やら筆記用具やらを取り出して机の中に仕舞いながら話す。これも、もう随分と慣れたものだ。

「で、次の彼女は決まった?」

頬杖をつきつつ横目でカカシを見ながら尋ねる。カカシには伝わらないのか、気づかないふりをしているのかわからないけど皮肉のつもりだ。

「ああ、そう言えば決まってないね」「じゃあ、私と付き合ってよ」
教室は、私が告白をしているというのに普段と変わらない賑わいだ。カカシが告白をされているシーンは既に普通の光景だし、その返事はその時「彼女」が居なければ決まってOKだ。
「いいけど」「…やっぱりいい」「なによ」
なら言わないでよねと、悪びれも無く言う辺りがカカシだ。これには悪意も何もないのだから仕方ないのだと諦めるしかない。付き合ってと言われるから付き合う。別れてと言われるから別れる。カカシにとって告白とはその程度のことなのだ。ふらふらしているというよりは本気の恋愛というのがどういうものかわかっていない様子。だからたまに本気でカカシをすきな子がカカシと付き合ったときは見ていられない。付き合い初めはしあわせそうだけど、1週間も経てば常に泣きそうな顔をしている。
それを仕方ないんだよ、という目で見れるようになってからは私も安定したものだ。それに慣れるまでは幼馴染の自分でもああなるのだろうな、と悲しくて時々泣いていた。

「 カカシ、」「何?」

会話が終わってから私が考えていた時間また文庫本を見ていたのだろうカカシは、顔だけでこちらを向いた。

「やっぱり付き合おっか」「…いいけど」

この恋人ごっこの結末は知っている。いつも決まって同じ。彼女側が辛くなってカカシをすきなまま別れを望むのだ。それを知っている私はいつまでもつのだろうか。一週間も持たないだろうか。だって、今まで彼女扱いはされたことがないのだ。気持ちが無いまま立場が急変することに泣くだろうか。それでも私は、幼馴染という認識だけの女で居ることが嫌になったのだ。一瞬でもカカシの中で私は女として刻まれたくなった。そして悲しい顔をしないまま、いつか別れを告げてやるのだ。カカシのことがすきじゃなくなった、と。
アネモネ


20110209