里の中を通る風が仄かにやわらかくなった。それは暖かさが近づいてきたという見えない印なのだと思う。これからのことを考えると嬉しさ半分、後ろ髪を引かれるようなせつなさ半分。
そんな感情を、私より数年早く上忍になった先輩であり同期であるカカシに漏らした。
「なに、そんなに冬がすきなの」
いつも通り少し眠そうな目で遠くを見ながら呟いたカカシ。その視線の先には歴代火影の顔岩。からかって来るときには全く感じられない、でも常に潜めている深い感情を目の前に現されたようなこんな寂しさと似ている寂しさを私は感じているのよと言ってもきっと駄目だろう。
強い。やさしい、怖い、謎。色々な要素が合わさってカカシ。届かない寂しさがあってもそれはそんなカカシをすきだから生まれる私の感情なのだ。
逆に届かないからこんなにも焦がれるのかもしれないとも思う。ここまで来ると堂々巡りで答えなど見つからないのかもしれない。
すきだから切ない。切ないほどすき。だからってすきじゃなければ良かったと思うことは無いのだ。
自分から話し掛けておきながら考え事をして黙っていたせいか、カカシはこちらをじーっと見ていた。
どきっとはするけど、顔に出すほどではなくて、でも嬉しい。
女はなんて欲張りなの。溜息を吐き出すときのように思うけど案外こういう我侭は思っていても悪くない気がする。

「冬はすきだよ」
「うん?」
「でも春もすき」
「じゃあいいじゃない」
なんだ、解決してんじゃないのって呟くカカシは私が黙っていたせいだろう、少しばかし考えてくれていたようだ。こんな些細なこと、気にしてくれなくてもこちらを見てくれるだけで嬉しいのに。全くこれ以上すきにさせないでほしい。しあわせすぎると恥ずかしくなる。
「でもカカシが一番すき、だなぁ…」
それは告白と言えるものではなかった。告白だけど伝えることを意識してなくて、吸い込んだ息を吐き出すような自然な動作だった。
でも、カカシは何も言わなかった。
横に座っているカカシを見上げるようにすると頭の上に手が落ちてきてゆっくりと頭を撫でられた。
そして、やわらかい笑みを浮かべた瞳と視線がぶつかった。
とけてしまいそうだ。

たべちゃいたいなぁ

カカシの呟きに私が返す言葉は決まっていた。
「じゃあ、たべてもいいよ」
「うん。いただきます」


臍 20120304