Seeking Love | ナノ

02.What's the matter?

しおり一覧

「風月さま。お支度が整いました」
 息を堰き切って、ひょろ長い男が迎えに来る。随分と早い。これは賞賛に値する。
「御苦労さま。――では、行きましょうか」
 男を労い、耕造の二の腕を掴んで無理矢理立たせる。
 舌を噛み切る度胸もない男なんて、関わりたくもないのに。
 あの弟の心を、射とめてしまったこの男。どうせおもちゃにされるだけだろう。
 長い長い階段を通って辿りついた地下牢。
 湿気だけではない、陰気な何かが渦巻いているように見えて、風月もあまり好きな場所ではない。
 耕造を閉じ込め、鍵を掛けた。
 振り返ることなく、風月は弟の自室へ向かう。
「入ってもよろしいですか」
「入れ」
 短いノックと同じくらい短い許可。
 静かに扉を開けると、ショックを受けたような瞳をしていた。
 所詮、この子もお坊ちゃんだ。気づかぬふりをして、足を一歩踏み入れる。
「あの者の処分をどうなさいますか」
「自警団見習いにしろ。男であることも明かせ」
 意外なような、意外ではないような弟の考え。
 命令に従うべきとわかっているのに、風月の口端は意地悪くつり上がってしまう。
 救護室ではなく、真っ直ぐ自室に来てくれたことへ礼を言おうと思っていた四葉は、やっぱり言うのをやめた。この護衛に敵うわけがないのだ。
「風月」
「はい」
「耕造はなぜ、躊躇いもなく命を断とうとしたんだと思う」
「それは本人にしかわかりません。あなたはなぜだと思うのです」
「俺は」
 四葉にもわからなかった。
 悩む弟の姿をじっくりと眺め、風月はくすりと笑って首を傾げた。
「あれは随分とぶれのある人間のようです。また、あなたに刃を向けるかもしれない。それでも、武器を持たせますか」
「くどい。もう決めた」
「わかりました。――あなたは」
 なんだ、と言いたそうな苛立った瞳は母に似ている。
「あなたはまだ何も失ってはいない」
「最初から何も持ってないからな」
「それはひどい。この私がいるじゃないですか」
 茶化すように言ったら、背を向けられた。
「風月」
「はい」


*前次#

back
MainTop

しおりを挟む
[8/20]


- ナノ -