02.What's the matter?
横顔ばかりで、視線を合わせようとしないなんて失礼にも程がある。
「答えなさい。どういうつもりだ」
近づきながら問い詰めても、警戒する気配がない。
「お前には関係ないだろ」
「ならばとっとと飛び降りろ!」
四葉の怒声と同時に、躊躇わず耕造の体が宙に浮く。
その腕を掴む。
まずい、と思うと重力に逆らう方向へ引っ張られ、次の瞬間、屋上の床に叩きつけられた。
体中から息がなくなったような感覚、そして声も出ないほど腰が痛い。
「――言い訳はありますか」
地を這うような護衛の声に、頭痛までしてきた。
ただ、腹の上でもぞもぞと耕造が動いているのがわかる。
重い。
痛い。
早く退け。
「これを地下牢に。四葉さまは救護室へ」
「はッ」
痛いと言いたいのに声はやっぱり出なくて、抵抗することもできず先程訊いた年嵩の自警団の男におんぶされる。
耕造は護衛によって縄を打たれ俯いており、その表情は見えなかった。
地下牢の準備を整えに行ったひょろ長い男を見送り、ふたりきりの屋上。
「お前ら、俺をどうしたいんだよッ!」
「四葉さまの夜のお勤めを」
耕造が食ってかかるが風月はさらりと流した。
「ッ、俺は男だッ!」
「ええ。見ればわかります。女装癖のある男性ですね」
「ッ、ちが、これは――ッ」
面倒臭い、と舌打ちしたくなったが我慢する。
「脱走して、その場で切り捨てられなかっただけでも幸運なのにあなたはまだ何か言いますか」
「死ぬつもりだったから、別にいいッ」
「死ぬつもり? へえ」
短剣を目前に突きつけると耕造の息が止まった。
「ひと思いになんか、死なせない。じわじわと甚振って、一族すべてに報復をする」
耕造は震えた。小物め、と内心毒づき、数秒の時を経て離すと、目に見えて緊張が解ける。
「まあ、四葉さま次第だ。せいぜい、気に入ってもらえるように努力なさればよろしい」