02.What's the matter?
礼を捧げず、風月は救護室を後にする。
玲菜の家のことは、その兄である耕造に聞くことが手っ取り早いだろうと四葉の部屋へ舞い戻る。
手違いとはいえ、一応領主の妻だ。扉をノックをしたが返事はなかった。
「失礼します」
扉の向こうにもはっきりと聞こえるはずの音量で告げても音沙汰がない。
まさか自害したのではないかという嫌な予感に襲われ、許可なく扉を開けると窓は開け放され、カーテンが爽やかにはためいていた。
唖然としている暇はなかった。
攫われたのか。
脱走したのか。
窓に駆け寄っても、どちらの痕跡も見つからなかった。
風月は自分でもわかるほど冷静だった。
急いで自警団を、召集しなければならない。
*****
窓を伝って、城の最上階まで登っていく。
普通、逃げるなら下に行くと思いがちだから、きっと、見つかることなく旅立てる。
耕造は男だ。
だから、男に辱められる前に、この命を絶つ。
玲菜は無事、逃げ切れただろうから、心配はしていない。
*****
護衛の去った救護室は本来の寒々しさを取り戻し、四葉は苦々しい想いの捌け口を探して床を蹴った。
気は晴れない。
なんとなく扉の外が騒がしいのを感じた。
不思議に思い外に出ても、自警団の連中が駆けまわっているだけ。
「いったい何がどうしたというのです」
年嵩の人間を捕まえて問えば、「玲菜さまのお姿が城内にないのです」と蒼褪めた顔で答えられた。
なんだって、と訊き返したい半面、妙に納得してしまった。
「わかった。ありがとう」
「はッ」
わき目も振らずに屋上まで駆けあがった四葉の目に映ったのは、遥か下の地面を冷めた瞳で見下ろす耕造だった。
「どういうつもりなんだ、きみは」
返事はなく、四葉の苛立ちは募る。