03.Mind your business.
自警団の仕事は、耕造にしてみればちょろかった。
むしろ以前よりも運動量が減った気がする。
夜は領主から文字を教えてもらい、今では簡単な物語を読むこともできる。
領主は耕造に手を出そうとはしなかった。
「そういう目的で、玲菜を連れてこようとしたくせに」
ある夜、領主の隣に寝転がった耕造がぽつりと漏らすと、領主は「太らせてから食う主義だ」と真顔で言った。
「――やっぱ、男が趣味なわけ」
「いや。宗旨替えしただけかな。きみのためだよ」
「全然嬉しくないです」
絶えず領主にへばりついていると思った護衛は思ったよりは領主を放任しているらしい。
大丈夫なのかと思う反面、自警団長があの怖い鬼だったらこの城の警備も大丈夫なのだろうと納得してしまう。
文字を書く練習として義務付けられている日誌を書き終え、既に寝入ろうとしている領主の顔をじっくりと見つめる。
この日誌に書いているのは耕造にとってくだらないことだ。
でも、もしかしたら自警団を監視する目的も含んでいるのかもしれない。
自警団長の惣弥も副団長の深水もよく読めない男だった。
一番近いように見えた護衛でさえ、領主は気を許していないように見える。
だからといって、自分が領主の心のよりどころ、なんて自惚れているわけではない。
玲菜に危害さえ及ばなければいいのだ。
その玲菜ももう逃げ切ったのだから、耕造もそろそろここを飛び出していい頃合かとも思う。
一度は殺そうとした相手だ。
なのに、ここに留まっているのは、もう誰もいない場所に帰っても仕方がないからで。
玲菜たちに近づくことは当初の目的に反することだから、恐らく一生、会うことも叶わなくて。
耕造は自身の存在意義について想いを巡らせていた。
耕造の視線を感じるが、四葉は目を閉じたままでいた。
起きるのが面倒だったからだ。
耕造と過ごした数ヶ月でわかったことは、やはり男は愛せないということで。
そして、玲菜との出会いが仕組まれていたかもしれないということで。
四葉のおもちゃをちらつかせることで、何かから意識を逸らさせたいことまではわかるのに、誰が何から逸らさせたいのか、いかんせん候補が多すぎる。
「なあ、お前さ、恋人できたの?」
うまくまとまらない思考は、突飛な発言に吹き飛ばされた。
思わず体を起こし耕造を見ると、とっくに狸寝入りがばれていたらしい。
「そんなに慌てることないだろう」