02.What's the matter?
「お前最近、いやに俺に逆らうな」
「――すみません」
振り返った弟の瞳は冷えていて、そんな思いをさせてしまうことがつらい。
しかし、うまく表情を繕ったつもりの四葉は護衛の心中に気づかない。
「護衛は護衛らしく、私の身を守ればいい。お疲れ様。もう下がっていい」
「はい」
一礼し、扉を出ていく。
その間、領主は一度もこちらを見なかった。
「自警団見習いか」
4つの都のなかで、最も悪質といわれる冬の都の自警団。
その見習いとなれば命を落とす者も少なくない。
四葉がおもちゃを手放すわけがないから、きっと、見込みがあるのだろう。自分にはわからないが。
自室に戻り、寝台に寝転がりたい気分をぐっと押さえて机の前に腰かける。
書類は簡単に作れるが気が進まない。
先に玲菜の家を調べ上げようか。
しかし再び地下牢へ足を運ぶ気にもなれない。
仕事を後回しにするなんて、今日は自分らしくない。やっぱり寝よう。
風月はそう結論付け、机から目を逸らすと、本能のままに寝台に飛び込んだ。
*****
耕造は領主から目を背けていた。
領主の自室は耕造が飛び出す前と何も変わらないが、薬品臭い領主と正対するのは耐えがたい。
耕造が地下牢に放り込まれ、護衛も去って時間の感覚もなくなりまどろんできた頃、領主が耕造を連れ出した。
「きみには自警団の見習いになってもらうよ。できるだろう?」
鼻歌でも歌いそうな軽い調子で告げられた言葉に、耕造は答えなかった。
そしてそのまま、領主の自室へ連れ戻された。
寝台の左端に腰かける耕造を咎め立てもせず、領主はのんびりと本を読んでいる。
鼻さえ向けなければいいかも、と思いながらちらりと領主を盗み見ると、領主も耕造を見ていた。
「きみも読む?」
穏やかな笑みにつられたわけではない。
眠たくて、正常な判断が鈍っているだけだ。
普段なら、こんなときは馬鹿にされたと腹が立つだけなのに。
ほら、眠いのにこいつが俺を連れ出すから。
そう心の中で言い訳をしながら、差し向けられた本を恐る恐る受け取る。
そっと表紙に触れ、しかし開こうとしない耕造を四葉は訝しんだ。