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01.Lovely days

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 中学時代、樋山恭介のクラスメイトであった男はやがて親友になり、恋人になり、最愛の従妹の夫となった。

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「ねえねえ恭ちゃん。バレンタインのお菓子なんだけど」
「ええ、わかっていますよ」
 従妹の忘れ形見である茜が恥じらいつつこそこそと耳に囁くのがくすぐったい。
 苦笑しつつ恭介が答えると、茜はぱああっと表情を明るくした。
「あ、でもね、今年は私も作りたいの。小学校最後だしさ。やっぱりみんなへのお礼の意味も込めて……」
「はい。じゃあ、茜ちゃんでも私の手を借りずにできるものにしましょうか」
「ありがとう、恭ちゃん!」
 顔の造作は茜の父親で恭介の親友でもある真司に似ているが、飛び上がって喜ぶさまは従妹のすみれを彷彿させる。
「あ、今お母さんのこと思い出したでしょう」
「よくわかりましたね」
「わかるよ。恭ちゃんのことだもん」
「なんの話してんの?」
 茜の弾んだ声に、先程まで読書をしていた薫が迷惑そうに本から顔をあげる。
「私が恭ちゃんのこと大好きって話よ」
「恭介、ロリコンだったのか」
「……違いますよ」
 父親そっくりの顔で父親譲りの勘違いを真顔で言われるとなんだかげんなりしてしまう恭介を余所に薫は本をソファに伏せて大きく伸びをする。
「あーもう茜のせいでせっかくの感動の余韻が消えた」
「人のせいにしないでよ。それくらいで途切れる集中力の弱さを恨みなさい」
「ッ、自分で料理もできないくせに」
「話の論点をずらす人間に言われたくない!」
 姉弟喧嘩を始めたふたりを眺め、従妹の遺影を見た。元気だねと笑っている気がした。
「恭ちゃん!」
 涙目の茜が恭介の胸に飛び込んでくる。
「ほら。男の子は女の子を泣かせてはいけませんよ」
「それは逆差別って言うんだ」


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