04.Last concert
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「結婚することになりました。籍だけ入れて、式はあげません。明後日にはここを出ます。今までありがとうございました。――急で、ごめん」
彼は僅かに両目を見開き、葵は唇を小さく開いている。
茜は蒼褪め、薫は「おめでとう」と静かに言った。
居たたまれなくなり、恭介は彼との部屋に駆けあがった。
ベッドで毛布を被る。
なんだかとても泣けてきた。
扉が開く音がする。
毛布越しに、彼が背中を擦ってくれている。
これでは、前と状況が逆だ。
「お前、幸せになるんだろう?」
毛布を取り、彼の瞳を見た。
彼の瞳は濡れていた。
首が徐々に絞まっていく。
「お前がどこに行こうと、俺の知ったことではない。気兼ねなく、好きなところへ行け」
開け放した窓からは初夏の香りが舞いこむ。
彼と出会った季節を思い出した。
このまま、息絶えたら。
すべての思い出をこの腕に抱けるのだろうか。
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いいことじゃないの? きみにとっても、樋山にとっても。
だって、考えてもみなよ。
元恋人が自分そっくりの従妹を妻にして、彼女亡き後は自身もきみの囲われ者になってさ。
ほら、そんな怖い顔しない。事実でしょう。
祝ってやりなよ、緒方。
きみ、本当に樋山を愛していたんだろう?