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04.Last concert

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 茜、勘づいてるかと思ったぞ紛らわしい、なんて忌々しそうに彼が目を細めたが、恭介は曖昧に笑って肩を竦めただけだった。
 家族じゃないから、行けない。
「囲われ者の人生なんてそんなものだよ」
 おどけて言って、後悔した。
 彼が、無表情の下で傷ついていた。
 ふたりとも、もう何も言わなかった。

*****

「恭介。結婚しよう。ずっと、一緒にいてほしい」
 梓紗は本当に綺麗になった、と恭介は冷静にそう思った。
「――恭介?」
 いつまで経っても無言の恭介に、梓紗は不安になったらしく、再度呼びかけてくる。
「ああ、うん……。その、ごめん」
 梓紗の瞳が泣きそうに歪む。
「きみのご両親は、俺みたいなのと結婚させるためにきみを育てたわけじゃない」
「……そんなのおかしい。恭介、ずるいよ。恭介が嫌いって言うならわかる。私の親のせいにしないで」
「ん、ごめん……」
 洒落たレストランは不穏な空気も呑みこんでしまう。
 少し時間が長くなってもいいと恭介がいったから、コース料理。中華なのは、梓紗が好きだからだ。
「とにかく、ごめん」
「ごめんって、何。なんで、ごめんって言うの」
「付き合ってるのに――結婚の意思がないから。別れよう、梓紗ちゃん」
「なんで急にそうなるの」
「俺はこのまま、誰とも結婚しないよ。梓紗ちゃんは誰か、見つけないと。おじさまとおばさまに申し訳が立たない」
「ねえ、恭介、なんで人のせいにするの。ねえ、おかしいよ」
「でも本心なんだ」
「恭介が私を抱けなかったら、諦める。だから、恭介――」
「梓紗ちゃん、駄目だよ。結婚前の女性がそんなことを言うものではない」
「私、とっくに二十過ぎてるんだよ。 何、古いこと言ってるの」


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